雑動部活動日誌91〜100

■題  名:その91 気まずい      【2000年08月06日】


かずお 「なんだよあいつら。よってたかって。」

 女達が見えなくなると、カズは物陰から出て、彼女の様子をうかがおうとした。  また泣いてるのではないか。と思いながら ビルの入り口を覗き込もうとしたとき、彼女が 飛び出してきた。女達の去った方へ2、3歩いったところで立ち止まると、彼女は小さな声で言った。

彼女  「どうしよ・・・」

 彼女はすぐ後ろにいるカズに気付かず、 しばらくの間、立ったままだった。 カズのほうは「ヤバい、見つかる! 気まずいな。 なんて言やいいんだ!」とそわそわしていた。  カズが一旦隠れようと、背を向けた時、 彼女もちょうど振り返った。

かずお 「!?」
彼女  「あ!?」

 彼女はとても驚いた顔をしている。  カズは動けなくなった。 「ずっとこっそり聞いてたんでしょ?」 「なんで止めてくれなかったの?」、「なんで助けてくれなかったの?」と言われそうで、 とてつもない自己嫌悪に陥っていた。  二人ともしばらく黙っていたが、この空気に 耐えきれずにカズが口を開けた。

かずお 「すいません・・・」
彼女  「!?」
かずお 「・・・」
彼女  「・・・。私こそ。」

 彼女はうつむいて言った。

彼女  「あの、時計。必ず返しますから・・・。
    ごめんなさいっ!!」

 彼女は言い終わると駆け足でビルの階段を あがっていった。

かずお 「あ、あの〜!!」

 カズの声に彼女は背を向けたまま止まった。

かずお 「あの時計!
    別にそんな大した物じゃないんで。
    気にしないで下さい! 全然平気ッスからっ!」

 カズが言い終わると、彼女は何も言わず、 振り返りもせずに再び階段を上りだした。 そして、しばらくして彼女の足音も消えた。

 

■題  名:その92 幸男!?      【2000年08月08日】


 このビルの案内看板を見ると、3階に 「並木ピアノ教室」というのがある。 おそらく、彼女はそこに通っているのだ。 ビルの前を見ると、昨日の自転車がある。 カギはなおっていなかった。そのかわり、 数合わせのチェーンがついていた。 ぼこぼこに変型したカギ本体もカゴの中に置きっぱなしだった。

かずお 「・・・もしかして、昨日のイタズラって、
    電車の乗客じゃなくて、さっきの奴等かな・・・」

 カズは自転車の前輪の泥よけに名前が書いてあるのに気がついた。

かずお 「ん!? さ、さくら?
    さくらだ、さちお?(幸男)」

 古い漢字の「さくら」が使われていた。 自転車に名前を書く場合、女名を書くとイタズラ されやすいとよく言われる。彼女も名前をかえて あるのだろう。

かずお 「さっきは余計なこと言っちゃったかな。
    余計、気にしちゃうかなぁ・・・」

 かずおはため息を一つすると、とぼとぼと家路についた。

かずお 「彼女、なんて名前だろ。
    さち・・・。やっぱり「子」だろ。さちこ。
    やっぱり彼女、体育館に行くのかな。
    時計が無くてもいくのかなぁ・・・。
     もしかしたら、「さちお」かも。
    「幸緒」とか「幸穂」とか。
      ・・・はぁ〜・・・。」

 カズは眠りに就くまで、頭の中がモヤモヤして こんなことをずっと考えていた。 最後に時刻を見たのは午前1時55分だった。
 その夜、カズは彼女の夢を見た。 あの女達に袋叩きにされ、うずくまっている。 そして、黒い影だけの「那須さん」が声だかに 笑っているのだった。  その後、次の日、また次の日も、 またまたその次の日も、彼女を見ることはなかった。

 

■題  名:その93 症状      【2000年08月08日】


 一週間が過ぎた。 カズは彼女に会うことはなかった。 塾の帰り、ピアノ教室のあるビルの前を通 る度、 彼女の自転車があるかどうかキョロキョロする。 そんな自分がなんだか女々しく思えて、 「何をしている! もう忘れろ!  勉強に集中しろっ!」 と自分に言い聞かせていた。が、どこかで、 「毎日来てるわけじゃないだろうし・・・。  週に一回かも知れない・・・。それとも、時間が合わない?」 と、どこかで再会を期待していた。
 そして、二週間が過ぎた。 二週間も腕時計がない。こんな状況、今までのカズなら、父の身に何かあったのではないか! と心配していただろう。しかし、この二週間、 父のことは何一つ頭に浮かんでこなかった。 彼女のことがどうしても頭から離れなかった。 勉強が手につかないというわけではなかったが、 何かに集中していないと、彼女のことばかり考えるようになってしまった。さすがにカズ自身も この症状には恐怖を感じ、早く何とかしなくてはと、 焦りさえ感じるようになった。 日増しにひどくなるこの症状に、 「これは恋の病なのか!?  いや、違う! 父の腕時計が絡んでるからだ!」 と思い込ませ、受験シーズンが来る前に早く解決 してしまおうと、幾度となくピアノ教室に彼女を訪ねようとしたが、どうしても階段を上がることが 出来なかった。それが何故なのか、カズ自身もよくわからなかった。
 そんなある日の塾の帰り。 ホームで電車を待っていると、アナウンスが流れた。

放送  「え〜ただいま、揚げ尾(あげお)、
    北揚げ尾(きたあげお)、駅間で
    線路内に人が入ったという連絡があり、
    安全確認が終了するまで、
    全線運転を見合わせております・・・」
かずお 「ふざけろよっ!!」

 やっぱり周りからも同じ叫びが聞こえる。

かずお 「プッ!!」

 カズは久しぶりに笑った。 なんだかとても、身も心も軽くなって、 どう言う訳かこんなことを思い付いた。

かずお 「歩いて帰ろうかな。」

 カズは何のためらいもなく改札を出た。 そして、意気揚々、鼻歌混じりで家路についた。

 

 

 

■題  名:その94 歩く       【2000年08月09日】


 駅前の商店街を歩くカズ。
いつも塾の行き帰りに見ていたが、普段、 別に気にもとめなかったもの。 それぞれの商店の明かり、看板、ネオン、 人の声、人の波・・・。なんだかいつもと違って新鮮に感じられた。さらに気分の良くなったカズは、足取りも軽く、鼻歌の音量 も心なしか大きくなっている。  家までの最短距離を行こうと、塾の行き帰りでは通 らない角を曲がり、初めて通る道を行く。 もちろん勘ではあるが。それでも。はじめてみる 町並みに少々興奮し、多少遠回りになってもいいかと思っていた。
 しかし、10分も歩くと疲れてきて、 最初の元気も無くなってきた。 さらに追い討ちをかけるように、進むにつれて 商店街の華やかさもなくなり、人通りもまばらに なった。いつしか店のまぶしい明かりも見えなく なり、周りは普通の家、民家の窓と、寂し気な 街灯の明かりしか見えなくなった。電車も運転を 再開したらしく、家々のわずかな間から線路を擦る ごう音と共に、その列車の窓の明かりがチラチラと見えるのだった。

かずお 「ちっ!
    再開しやがった。こんなに早く。
     くそっ!!」

 駅に戻ろうかとも思ったが、すでにかなり来ていたし、また戻るのが悔しかった。それなら、少し 遅くなってもこのまま行こうかなと考えた。
 遠くの街灯が切れかかって時折点滅している。
 昼間は蛍光色できれいであろう街灯飾りが、 暗く沈んだ色でカサカサと風に揺れている。
 近くの家からTVの笑い声がする。
 どこかの家で子供が叱られている。
 遠くで犬が哭いている。

かずお 「・・・」

 何かに押し潰されそうな気になったカズは、 暗闇の中、煌々と光を放つ自販機に救いを求めた。

かずお 「ふう。」

 カズはジュースを買った。

かずお 「プシュ。ゴクゴク。
    今何時だ・・・。
    あ、ヤバいヤバい。
    うううううう!!」

 カズは彼女のことを思い出しそうになって、 必死で気をそらそうとするのだった。

かずお 「なんでオレ、歩いてんだよ・・・」

 

■題  名:その95 暗闇      【2000年08月10日】


 ジュースを飲み終えたカズは再び歩き出した。 しかし、目に見えるモノはポツンポツんと続く街灯 だけで、歩けど歩けど景色はほとんど変わらない。  この道でいいのか? 逆に進んでんじゃないか? と不安になってきた。そのうち、オレはいま 歩いてるのか? 進んでるのか? 足踏みしてるん じゃないか? オレは・・・オレは?
 カズはこの暗闇が意思を持っていて、この場から 逃さね〜と言っているようで、もう永遠にこの暗闇 中を歩き続けるんじゃないか・・・と思いはじめ、 恐くなってきた。自分の周りには何人もの亡者が 集まり、オレを何処かへ引きずり込もうとしている のではないか・・・。カズは振り返ることさえ出来 なくなった。

かずお 「だれか、通ってくれ。
    痴漢でも、強盗でもいい。
    この空間が異次元でないことを、
    証明してくれ〜!」

 まっすぐ前を向くことすら出来なくなったカズは 自分の足元をみて歩いていた。 と、そのときだった。

 「グゥガァー!!   バサバサッ!!!」

 頭上でカラスが叫んだ。

かずお 「ひぃっ!?」

 カズは全速力で走り出した。 ひたすら走った。今止まったら、亡者どもに 捕まるような気がして、もう二度とこの暗闇から 逃れられないような気がして。

  かずお 「はぁ。はぁ。はぁ・・・」

 肺が痛い。腹も痛い。 心臓の鼓動が聞こえる。
背中のバッグで筆箱がカタカタいっている。
ズボンのポケットでキーホルダーが カチャカチャいっている。
小銭もチャリチャリいっている。
眼鏡が落ちてくる。 頭がぼーっとしている。 足がだるい。 身体があつい。 口の中が乾く。
 どのくらい走っただろう、体育の授業でも こんなに真剣に走ったことはない。  いつのまにか、夜でも交通量の多い大通りに 達していた。まぶしい照明が、行き交うトラックの 轟音が、すべてを吹き飛ばしてくれそうで、カズは ゆっくりと足をとめた。

かずお 「はぁ。はぁ。はぁ・・・んぐ、
     はぁ。はぁ。はぁ。」

 

■題  名:その96 ヴィヴィ〜!     【2000年08月11日】


かずお 「まだ、半分も来てないのか。きっついな。」

 とぼとぼとしばらく歩くと、自販機を見つけた。 カズはまたジュースを買うと、その自販機に寄り掛かった。  カズは自販機に寄り掛かり、ジュースを 「ズズッ、ズズッ」っとすするように飲み、通 りを 行き交う車をぼーっと眺めていた。
 この辺になるとちょっと見覚えのある景色もあり、 家までの大体の距離が分かった。しかし、知って いるのは昼間の道であり、こんな遅くに通ったことなどない。あとどれくらいと距離がわかって しまったぶん、よけいにきつく感じる。

かずお 「この通りを越えたら、また、真っ暗な道
     なんだろうな。ああ、行きたくね〜なぁ。
    ああ、疲れた!
    もう、最悪!」

 カズは自販機の前にしゃがみ込んでしまった。 また「ズズッ、ズズッ」っとすすりながら通 りを 眺めていると、人の足音と「ハァ、ハァ、ハァ」、 「ヒタ、ヒタ、ヒタ」という音が近付いてきた。

かずお 「なんだ!?」

 見ると犬の散歩をしている人が歩いてくる。 その犬はカズよりも大きかった。 「こりゃたまらん」と、カズは立ち上がり、 逃げるようにして再び歩き出した。  横断歩道を渡り、大通りを越えた。 そして最短距離であろう道の手前で立ち止まった。 道の状況を確認する。

かずお 「・・・」

 やはり、ポツンポツンと寂し気に街灯が立って いるだけだ。  カズは心を決めて歩き出した。 10m、20m。大通りから離れるにつれて、 照明の光りも、車の轟音も弱くなっていく。 50m、100m・・・。  早歩きになり、小走りになり、いつしか 「はぁ、はぁ」と言いながら走っていた。 ふと気付くと何か音がする。 うしろから聞こえてくる。バッグの音ではない。 カズは走りながら耳に神経を集中した。
  「ヴィ〜〜〜〜〜〜」
その音は近付いてくる。
  「ヴィヴィ〜〜〜〜」
自転車のダイナモ(ライト)のようだ。
  「ヴィヴィヴィ〜〜」
道幅は結構あるのに、オレの方へ向かって くるようだ!
  「ヴィヴィヴィヴィ」

かずお 「強盗か〜!?
    ああ、神様! さっきのは嘘です!!」

 

■題  名:その97 限界!      【2000年08月12日】


「ヴィヴィ〜!!」

いつしかカズは、追いつかれまいと全速力で 走っていた。振り返る勇気もなかった。

「ヴィヴィヴィ」

 200mくらい先にコンビニの明かりが見えた。 カズはそこに逃げ込もうと思った。

「ヴィヴィヴィヴィ」

 あと100m。体中が壊れそうだ。

「ヴィヴィヴィヴィヴィ!!」

 あと50m。すでに限界を越えている。 手足が思うように動かなくなってきていた。 その音は、後ろ3mにまで迫っている。

「ヴィヴィヴィヴィヴィヴィヴィ!!」

 その音は真後ろから横へ回り込んだ。
「ああ、並ばれたっ!」  そう思った瞬間、視界の端に映るその自転車に 乗った人物がこう言った。

その人物「君っ! 走るの速いねっ!!」

 女の声だった。驚いてその顔を見ると、 彼女、櫻田サンだった。  カズは足を止めると、その場に倒れるように 四つん這いになった。コンビニまであと10mの ところだった。汗がだらだらと出て、ポタポタと 道路へ落ちる。

かずお 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 彼女は少し進んでコンビニの前へ自転車を 止めた。そしてカギをかけた。カズはそれを 恨めしそうに見ていた。

彼女  「どうしたの?
    そんなになるまで走って? あ!?
    もしかして、私のこと、痴漢かなんか
    だと思った? ね?」
かずお 「い、いや。
    そ、そうじゃ・・・」
彼女  「そうなんだ〜!!
    ハハハハハッ!」

 カズはなんだか腹が立って、スッと立ち上がり、 歩き出した。

彼女  「あ、ごめん! 怒った?
    ちょっと、待ってよ!
     ごめんなさいって! 君!
    これ、返さなくっちゃっ!!」

 カズは振り返った。

 

■題  名:その98 …さちこ      【2000年08月13日】


 カズが振り返ると、彼女は持っていたバッグ から小さな赤い紙袋を取り出し、カズに手渡した。

彼女  「はい、これ。腕時計。
    遅くなってごめんなさい。」
かずお 「・・・こ、これ・・・。」

 カズはあの女達のところへ行ったのかどうか 聞こうとしてやめた。

彼女  「最初に逢ったところで君が通るの
    待ってたんだけど、結局、今日まで
    あえなくて・・・」
かずお 「・・・!?(待ってたんだ!?)」
彼女  「んで、さっき偶然、横断歩道を渡ってる
    君を見つけて。人違いかなって思ったんだけど、
    やっぱり君だった。家、この辺なの?
    桶皮(おけがわ)駅から結構遠いんだね。
    いつも桶皮駅を利用してるのかと思ってた。
    あの通りで待ってても会えない訳だ。
    あの日はたまたま通りかかったの?」

 桶皮駅とは、彼女と逢った通りの駅。カズの家の 最寄りの駅だ。今カズ達がいる場所では 「喜多本(きたもと)」という駅が一番近く、 彼女は勘違いをしているようだ。

かずお 「え、あ、いや。
    いつもは桶皮です。
    今日は、ちょっと、用があって。はい。
    桜田さんは、家、この辺なんですか?」
彼女  「うん。そう。
    あれ?
    私の名前言ったっけ?」
かずお 「うっ! 」
彼女  「君は超能力者か!
     それとも探偵ホームズかっ!
     どこかヒントあったかな?」

 彼女は自分のバッグやら服やらを一通り見て、 手を顎にあてて数秒首をかしげた。

彼女  「あ、わかった! なるほど。
    はは〜ん。
     それじゃ、君! 私の名前を当てて見なさい。
     名字じゃなくて、名のほう。
    さぁ、どうだ!
       今なら正解者の中から抽選ですてきな
    プレゼント〜! ないない!」

かずお 「・・・さちこ。」
彼女  「えぇっ!?」

 

■題  名:その99 正解商品      【2000年08月14日】

彼女  「えぇっ!! なんでわかるの!」
かずお 「いや、カンですけど。
    でも、幸…といったら、まず「子」だと思います。」
彼女  「だよね〜。
    やっぱ幸男じゃ意味ないか。バレバレ。
    なにか正解商品あげなくちゃね。
    このあいだのお礼もあるし。
    といっても何も持ってないな・・・。」
かずお 「あ、いいですよ。お礼なんて。
    それじゃ、僕、帰ります。」
彼女  「え、あ、ちょっと!」

 お礼なんて貰ったら「男の美学」が台無しだ。 そう思ったカズはそそくさと歩き出した。 でも、心の中ではちょっと残念とも思っていた。  カズは歩きながら赤い紙袋を開けてのぞいた。 腕時計が入っている。それと、なにか紙が 入っている。街灯の薄暗い明かりでは少し見ず らいが手紙のようだ。カズがその紙を取り出そう と手を入れた。と、その時、背後から近付くダイナモの音に気が付いた。

彼女  「ちょっと〜。
    そんな逃げなくてもいいじゃない。」

 彼女が追いかけてきた。 カズは慌てて紙袋から手を抜き袋の口をしめた。

彼女  「乗っけてってあげるよ。途中まで。
    正解の商品!
    家、まだ遠いんでしょ?」
かずお 「え!?」

 ドキッとした。

彼女  「二人乗り、ダメなんだけど。
    ちょっとだから。OKでしょ。 ハハ。」

かずお 「いや、いいですよ。歩きますよ。
    それに、あなた、疲れるでしょ?」

 ドキドキしていた。

彼女  「じゃ、君、こいでよ。
    私、荷台に乗るから。はい。」
かずお 「えっ!?」

 彼女はハンドルをカズにかたむけた。 カズは無意識にハンドルを持ってしまった。 彼女は荷台に横になって座ると、ニコッとカズに 笑いかけた。カズは自転車に乗った。
 自転車はフラフラしながら走り出した。 彼女の肩がカズの背に触れる。

彼女  「ちゃんと走ってよぉ!」

 自転車から落ちそうになった彼女はカズの腰に 腕をまわした。 カズの心臓はバクバクいっていた。

 

■題  名:その100 悪口      【2000年08月15日】


 走りはじめてしばらくして、自転車が安定すると 彼女は話しはじめた。

彼女  「君。カズくんていうの?」
かずお 「え? なんで知ってんの!?」

 カズは驚いて振り向いた。自転車が大きく揺れた。

彼女  「ちょっと! 危な〜い!」

 彼女は笑いながら言った。

彼女  「う〜ん。実はね。もう会えないかと思って、
     君を知ってるっていう子に手紙を渡したんだ。
     たしか、まつむろっていったかな・・・。」
かずお 「!?」

 今までの体中のほてりが一瞬にして冷めた。

彼女  「駅前の本屋で彼達が話してるのを
     偶然聞いてね。君らしき人のこと。
     それでもしかしたらって思って
     彼達に聞いてみたの。その人のこと・・・。
    君に間違いないと思ったんだけどな。
    まだ、届いてない? 手紙?
    別人だったのかな?」
かずお 「…いや、間違いないと思います。」
彼女  「だよね! 名前だってあってたし。
    昨日の夕方だったんだけど。」

 マム−に手紙。カズは恐くなってきた。 寒気すら感じる。

彼女  「忘れてるのかな?」
かずお 「それだけならいいんですけど・・・。
    そいつ等なんて言ってました?
    僕のこと。」
彼女  「え、あ、いろいろと。はは。」
かずお 「悪口でしょ! ガリ勉とか、チビとか、
    自分勝手だとか、暗いとか。」
彼女  「は、はは。」
かずお 「その手紙、なんて?」
彼女  「うん、急だったからメモ用紙に伝言を。
    月曜か火曜にあのビルのピアノ教室に
    いますって。」
かずお 「それだけ?」
彼女  「あと、8時頃までって。名前も。」

 自転車は信号で止まった。

 

この日記に登場する人物、団体、事件等は、すべて架空のものです。
なお【00年00月00日】とは作者の書いた日付けで、
作品中の日付けとは関係ありません。

 

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