雑動部活動日誌101〜110

■題  名:その101 町並み       【2000年08月16日】


かずお 「桜田さん家はどっちです?
    僕ん家はあっちなんですけど。」

 家の方向が違うようだったので、二人はここで わかれることにした。

彼女  「それじゃ、さようなら。
    時計ごめんなさいね。」
かずお 「いえいえ。さようなら。」

 彼女の乗った自転車はゆっくりと走り出した。 カズはその後ろ姿をしばらく見つめた。ダイナモの 音が遠ざかっていく・・・。カズは家路についた。
 この辺りまで来ると、もう知り尽くした土地で、 ここをいったらタバコ屋があるとか、ここを曲がれ ば駄菓子屋があるだとかが手に取るようにわかる。 街灯が少ない暗い道でも、そんな不安になって走る ことなどないはずだった。が、カズはいつしか走っ ていた。彼女とはもう会えない。会う理由がない。 カズはなんだか胸が苦しくなって、走ることで 気を紛らわそうとした。しかし、走っても、走って もその苦しさせつなさは消えなかった。

カズの母「おかえり。きょうは随分遅いのね。
    また電車? ん。 かずお?」

 カズは自分の部屋へ行くと電気もつけずにベッド へ寝転んだ。

母   「どうかしたの? かずお。晩御飯は?」
かずお 「いらない。」
母   「・・・そう。」

 カズの母はカギのかかったドアの前から去った。
カズは眼鏡をはずし、額に腕をのせる。別れ際の 光景が頭から離れない。自転車に乗った彼女が、 だんだん小さくなって暗闇の中へ消えていく。 はじめて会った時の笑顔や、ヤンキーに囲まれて いた時の鋭い顔までも思い出され、頭の中をぐる ぐると何度も何度も浮かんでは消える。
 それは朝まで続いた。どこからが夢だったのか、 それともずっと起きていたのか、わからない。 気付くと額にのせた腕の隙間が明るかった。 カーテンを閉めなかったので、早朝の町並みの 青い光りが部屋一杯に映る。カズは身を起こすと しばらく窓の外を見つめた。
  数分すると、朝日が 上りはじめた。青一色だった町並に色が付き始める。 いつしか朝日は部屋を染め、カズの顔もまぶしく 照らしだした。その光はとても心地よく、気持ちが 良かった。まぶたを閉じてもまぶしい。

かずお 「う〜〜ん。」

 カズは伸びをすると、朝日と逆に倒れ寝転んだ。

かずお 「やばい、北まく、ら・・・だ・・・」

 カズはそのまま深い眠りに就いた。

 

■題  名:その102 ハートのシール      【2000年08月17日】


 寝坊して遅刻ギリギリに学校へ来たカズを、 マム−(まさき)が気持ち悪いくらいの笑顔で 出迎えた。

まさき 「おはよう! かずおく〜ん!」

 言葉使いも気持ち悪い。

まさき 「元気だった〜? ハハハ。」
かずお 「気持ち悪いな。あっち行け! 寄るな!」
まさき 「あぁ。そんなこと言っていいのかなぁ。
    か、ず、お、さ〜ん。!」
かずお 「な、なんだよ。」
まさき 「実は手紙預かってんだよね〜。ムフフ。
    きれいな年上のお姉様から!
    き、み、にぃ〜!!
    これってラブレターじゃないの〜!
    きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
かずお 「大声出すなって! かせっ!」

 その手紙は昨日桜田さんが言っていたものとは全く違っていた。ちゃんと封筒に入れられており、表に 「橘 和雄さんへ」と書かれ、裏には「桜田より」 と書いてある。赤いハートのシールで封がしてあり、 いかにもラブレターという感じに仕上がっていた!
カズは嫌な予感がしてきた。

まさき 「何やってんだよ。早く開けろよ!」
かずお 「・・・」

 一目逢ったあの時から、あなたのことが忘れられなくなりました。あなたを好きになってしまいました。この気持ち、どうしても伝えたくてこの手紙を書きました。ご迷惑でしたらごめんなさい。でも、もし、あなたの気持ちの中に私が少しでもいるのならば、この気持ちに答えてくれるのならば、月曜の8時、駅前の竹原ビルの下で待ってます。 手紙にはそう書いてあった。明らかに、桜田さん本人が言っていたものとは違う。マムーが書き換えたに違い無い。しかし、字はマム−のモノでは無い。 きれいな字で書いてある。
  共犯者がいる!

まさき 「なんて書いてあった?」
かずお 「・・・(知ってるくせに!)」
まさき 「幸子さんて言うんだろ? その人!」
かずお 「ああ・・・(ボロが出た)。
    で、これ、誰と書いたの?」
まさき 「うん、や・・・いや、書いてね〜よ。
    何いってんだよ。オレは預かっただけ!」
かずお 「や、や、や。矢部!?」

 カズは供犯者であろう人物に思い当たった。 その人の方へ向くと、その人物はとっさに顔をそらした。その人物とは「矢部」といい、このクラスの女番長だ。この字はこいつに違い無い。 カズはそう思った。

かずお 「き、貴様ら〜!」

 昨日の夜、もし彼女に会わなかったらと思うと カズはゾッとした。

 

■題  名:その103 矢部!      【2000年08月18日】


 この手紙が本物だったらどんなに良かったか。
カズはため息をついた。もし、昨日彼女に会っていなかったら、マム−の陰謀どおりに引っ掛かって いたなら、それはそれで、彼女の気持ちが確かめられたのかも知れない。
カズはまた一つため息をついた。

まさき 「おいおい。なにため息ついてんだよ!
    はいはい! 悪ぅーございました!
    でも、手紙貰ったのは事実だからな!」

 マム−はさっき、犯行を自供した。矢部との 関わりは否認している。矢部の復讐を恐れているようだ。矢部は休み時間の度、姿を隠す。

まさき 「おい! 行くんだろ? 行かね〜の?
    どっちだよ〜!
    んじゃさ、実際のところ、お前はどう
    思ってる訳? 彼女のこと!」
かずお 「・・・」
矢部  「彼女、まんざらでもなさそうだったぞ。
    お前のこと真剣に聞いてたし。」
まさき 「あ、矢部、どこいってたんだよ。」
矢部  「少なくともお前のこと、興味持ってるぞ。
     もうすぐ「好き」になるな。うん。
    まあ、女のカンてやつだけどな。」

 こいつの言ってることはホントなのか、嘘なのか全くわからない。しかも、心理的に微妙なところを突いてくるので大抵の人は矢部の術中に陥る。 「こいついい詐欺師になれるぜ。危ねぇ、危ねぇ」 と思っているカズだったが、気付くと頭の中で 「もしかしたら」と妄想が浮かんでくる。無表情で席に着くその姿は、腹の奥でほくそ笑んでいるようでカズは無性に腹が立った。それにもまして、 7割8割がウソだと噂される矢部の話を、心のどこかで期待している自分がとても悲しかった。

ゆういち「好きなら、好きって言っちゃいなよ。」
かずお 「ん!?」

 いきなりゆうちゃんが話に加わった。どうやら ゆうちゃんにも話が伝わっているらしい。というか、 すでにクラス全体が知っているようだ。

先生  「よーし、みんな席に付け〜。
    4時間目、始めるぞ。
    お〜い! 橘!」
かずお 「はい?」
先生  「結婚式には呼んでくれよ!」

 教室に笑い声が響いた。その中に人一倍大きな声。 マム−だ。

まさき 「ハハハハハハハハヒ−ッヒヒ」
かずお 「・・・」

 

 

 

■題  名:その104 悪魔      【2000年08月19日】


 家に帰ったカズは、まだ紙袋の中身を見ていないことを思いだした。その中には手紙らしきモノが 入っていたはずだ。カズはバッグから紙袋を取り出して、中身を確認した。

かずお 「・・・」

 父親から貰った時計。そして、小さく折られた手紙があった。そこにはこう書いてあった。
 時計預かったままで返すのが遅くなってすみません。私の都合で迷惑をかけてしまいました。 本当に申し訳なく思っています。 この時計のおかげかどうか、転校生で少し浮いた存在だった私が上手くクラスに溶け込めるようになりました。とても感謝しています。そして、あの日、カギを外してくれて、ありがとう。  
  カズは嬉しくなって笑いながらベッドに寝そべり 何度も読み返した。何度も何度も。 が、ちょっと気になる部分がでてきた。 「おかげかどうか」「上手く」「溶け込める」 そして、あの夜の恐い女達。もしかして、これ、 皮肉ってるんじゃ!? 「とても感謝」じゃなくて 「とても迷惑」なんじゃ!? カズは急に不安になった。

かずお 「本心はどっちなんだぁぁぁっ!!」

 カズはその後も彼女のことが気になっていたが、 その度にマムーと矢部の顔が思い浮かび、ある意味 いいブレーキになり、このまま忘れてしまおうと思っていた。マム−、矢部の二人もいつしか話題にしなくなり、クラスの皆も忘れはじめていた。 が、二人の小悪魔の陰謀は密かに進行していた。
 月曜日、カズが塾の帰り改札から出ると、マム− が待っていた。

まさき 「よう。カズ。頑張れよ!」
かずお 「まさか!」

 今日が月曜ということは知っていた。しかし、 あの手紙は偽物であって、約束の時間に行っても 彼女は待っていないだろうし、知らないだろうと思っていた。もし、偶然いたとしても、別 に何も言うことはないだろうし、ましてやいきなり 「好き」なんて言う勇気もなかった。
 マムーが無理矢理引っ張って連れていく。 どうせいないからいいや。とカズはすんなりと引かれていった。 と、電話ボックスの影に矢部がいるのに気付いた。

かずお 「あ! お前もか!?
    やばい! 何かある!」

 矢部がいるのはヤバい。こいつの計画はヤバい!
そう思ったカズは逃げようとしたが、もう遅かった。 矢部がアゴで方向を差した。そこには桜田さんが 立っていた。

かずお 「き、きさまら・・・」

 

■題  名:その105 きっかけ      【2000年08月20日】


かずお 「まさか、お前が呼び出したんじゃ
    ないだろうな!?」
矢部  「フッ。そんなことはどうでもいいだろ?
    問題はお前がどうするか! だろ?」
まさき 「そうだそうだ!」
かずお 「良く無い! まだ7時30分なのになんでいるんだ!
     なんて言って呼び出したんだっ!」
矢部  「フッ。橘って子が、あなたに話したい
    ことがあるってな。彼女、ピアノのレッスン中なのに
    抜け出して来てくれたぞ。」
かずお 「そこまでするか?」
矢部  「もう、5分待ってるんだ。
     これ以上待たせるな!」
かずお 「いや、ちょっと待て。なんでオレが
     この時間に来るってわかったん・・・。
     まさか、塾にもだれか!?」
矢部  「フッ。この計画に関わっている奴は、
    一人や二人じゃないってことさ!」
かずお 「ちっ!
    そんなに人をからかって面白いのか!」
矢部  「ああ! 面白いね!
    楽しくて楽しくてしょうがないね!
    おかげでここ二三日、興奮して
    寝不足になるくらいにねっ!」
まさき 「あきらめろカズ。相手が悪い。
    あの日、本屋にこいつがいた時から
    こうなる運命だったんだ。」
矢部  「別にあんたを陥れようなんて思っちゃいない。
    偶然アタシがあの場にいたのも何かの縁。
    こりゃあ一丁、この恋物語、
    見事まとめてみせましょう。
    そう思っただけさ。」
かずお 「恋物語だと! 余計なお世話だ!」
矢部  「恋かどうかは、お前が一番知ってるはず。
    アタシはただきっかけを与えたにすぎない。
    どうするかはお前次第なんだ。」
かずお 「・・・。」
矢部  「フッ。まあ、突然きっかけって言っても
    なんだろうと思って、ある物を用意した。
    手紙だ。2通ある。そして、それぞれには
    別の内容が一言ずつ書かれている。
    一つ。『あなたが好きです。』
    二つ。『お前なんか大嫌いだ。』 」

 矢部は手紙をひろげて見せた。そして、それぞれを色違いの封筒に入れてカズに渡した。

矢部  「どちらか片方を渡すがいい。
    受験が控えているんだろう?
    今日この場でかたをつけてしまえ。
    さあ、若者よ、いくがよい。」

 カズはなんだか、矢部が大人に見えた。

 

■題  名:その106 拳(こぶし)     【2000年08月21日】


 カズは彼女のもとへと歩き出した。

まさき 「がんばれ!」
矢部  「フッ。」

 なんて言うのか。どっちの手紙を渡すか。 カズは考えに考えた。しかし、決まらない。 心臓が口から出そうだ。 それでもカズは少しづつ彼女に近付く。 彼女は壁に寄り掛かって下を向いている。

彼女  「あ、カズ君。」
かずお 「!? ど、どうも・・・」

 彼女がカズに気付いた。

彼女  「時計に何かあった? 壊れてた?
    ごめ〜ん。」
かずお 「ち、違います! 違うんです。」
彼女  「?」
かずお 「・・・」
彼女  「どうしたの?」

 そのあと、しばらく沈黙が続いた。 彼女もカズの真剣な雰囲気に少し驚いた様子で 何の話なのかと、カズをじっと見ていた。 ただ一つ、カズのギュッと握りしめた拳だけが プルプルと小さく震えていた。

彼女  「・・・ねぇ? どうし・・・」
かずお 「桜田幸子さん!」
彼女  「え!?」

 うつむいて動かなかったカズが顔を上げた。

かずお 「僕、あなたが好きです!」
彼女  「!?」
かずお 「迷惑かもって思ったんですけど、
    何だコイツって思うかも知れ無いですけど、
    僕の本心です。
     でも、忘れてください。え〜と、
    突然好きとか言っといて何なんですけど、
    自分勝手で申し訳ないんですけど、
    忘れて下さい。
     僕も忘れます。だから忘れて下さい。」
彼女  「・・・あの・・・」
かずお 「あなたのこと忘れます。忘れなければ
    ならないと思ってます・・・
     だから、この手紙、渡します。
    あえて、この手紙を。
    あなたがどうのっていう訳じゃありません。
    あなたは何も悪くありません。
    悪いのは僕の方です。100%。
    でも、あえて、この手紙を、渡します。」
彼女  「・・・ぁの?・・・」
かずお 「一方的で申し訳ないんですけど。
    これが一番だと思いました。
    ごめんなさい。
    さようなら。」

 カズは「お前なんか大嫌いだ。」の方の手紙を 彼女に渡すと、暗闇の中へ走り去っていった。

彼女  「ちょ、ちょっと!?」

 

■題  名:その107 悪魔ニ匹      【2000年08月22日】


 電話ボックスの陰からのぞく悪魔ニ匹。

まさき 「あいつ、自分で好きっていったぞ。」
矢部  「ああ、予想外だ。」
まさき 「なのに手紙は『嫌い』の方を渡した。」
矢部  「・・・みたいだな。」
まさき 「なんだよ。どういうことだよ。
    これでおしまいなのか?」
矢部  「・・・だろうな。」

 桜田さんは手紙を開けて見ていた。そして読み終えると、カズが去っていった方を一度見て、 静かにビルの中へ消えていった。

まさき 「なんだよつまんね〜な!」
矢部  「・・・」
まさき 「もっと楽しみたかったのに。なんで
    『嫌い』のほう渡すかな〜。」
矢部  「・・・ヤツはヤツなりに考えたのさ。
    いろいろとな。」
まさき 「恋より勉強を選んだのか。
    ヤな男だね。乾いてるね〜。」
矢部  「・・・うるさいな、お前。
    ヤツが悩んで出した答えだ。アタシらが
    とやかくいうことじゃ無いだろ!
    こんなことしてるお前の方が
    よっぽどヤなやつだぞ!」
まさき 「な、なんだと! お前がこの計画
    持ちかけたんだろ! お前の方こそ
    ヤなやつだ! 」
矢部  「なに〜!? アタシに文句でもあるのか!」
まさき 「・・・ちっ。」
矢部  「グチグチ言ってないで、友達だったら
    追っかけてって、やさしい言葉の一つでも
    かけてやれっ!」
まさき 「へッ ばーかっ!」
矢部  「っだと!!」

 マム−は矢部に舌を出しながら走り出した。 矢部は数歩追いかけてマム−を威嚇した。 マム−が見えなくなると矢部はピアノ教室の窓を見上げた。

矢部  「まさか、自分から好きと言うとは。
    そして、忘れてくれ。かぁ。
    ち、余計な仕事が増えちまったぜ。
    フッ・・・」

 カズは次の日から、親の反対を押し切って、 自転車で塾に通うようになった。
 これが以後「ラブレター事件」と言われるようになるのだった。
 橘 和雄。小学6年の初秋であった。

 

■題  名:その108 約半年       【2000年08月23日】


まさき 「そうか、カズとサチ隊長は出会っていたんだ!
     しかも、運命的な!」

 オレはあらためて本人に聞いてみることにした。

まさき 「サチ隊長?
    あなたはもしかして、駅前のピアノ教室に
    通っていた桜田幸子さんですか?」
サチ隊長「!?」
まさき 「そして、カズに『好き』と告白され、
    『忘れて』とも言われた。」
サチ隊長「知っていたのか? そうか。
    いかにも、私がその、桜田幸子だ。」
まさき 「全然気付きませんでした。
    あの時は髪も長かったし・・・」

 オレは言葉使いも全然違かった、雰囲気も全然 変わった・・・と言おうとしてやめた。

サチ隊長「だろうな。私自身、お前達のことも、
    あの出来事のことも忘れていたよ。
      いや、忘れようとしていた。」

まさき 「忘れようと?
     って!? まさか!」

 あなたも好きだったんですか、と聞こうとしたが聞けなかった。

サチ隊長「松室。顔はもう忘れていたが
    お前の名前を聞いた時、一瞬、ハッとした。
    だが、人違いだろうと思っていた。
    たとえ、間違えではないにしろ、
    塾に通っていたあいつだ。
    この公立の学校にはいないだろうと思っていた。
    今日の朝、あいつが校門の前に来るまでは。
     あいつの顔を見た時、自分の目を疑った。
    半年前の面影がそのままだった。
    なぜここに、この学校にいるのだと…。」
まさき 「あいつ、合格できなかったんだ。本人も
   『受からないってわかってた。まだまだ、
   自分に納得のできる状態じゃなかった。
    とりあえず受けてみただけ、高校受験の
   練習でね。心の方も勉強しないとダメだって
   いうのが、この数カ月でよくわかったよ。』
   って難しいこと言ってた。」
サチ隊長「はっ、心ね。そうだな。
    思えばあいつと出会ってから、あの時計を
    預かるのがきっかけでこの約半年、色々
    学ばせてもらった。あいつと逢わなかった
    らそれも無かったんだろうな・・・」
まさき 「オレ、カズ呼んできます。」
サチ隊長「バカ。余計なことするな!
    やつも忘れている。忘れたはず。
    古い話しを蒸し返す必要はない。
    忘れようとして、忘れてことだ。
    これでいいんだよ。これで!」

 こんなこと滅多に無い。今回はオレ一人が 恋の橋渡し、キューピットになってやるぜ。

まさき 「はいはい。わかりました。
    言いませんよ!」

 

■題  名:その109 ゴォッ!      【2000年08月24日】


 オレが歩き始めた時、サチ隊長はオレの腕をつかんで言った。

サチ隊長「言うつもりだな?」
まさき 「いや、いいませんよ!」
サチ隊長「顔が笑っていたぞ!
    いいから、そっとしておいてくれ!」
まさき 「・・・!?
    な、なんすか。わかりましたよ。
    別に怒んなくても。」
サチ隊長「・・・」

 サチ隊長はオレの腕を離すと静かにベンチへ 腰を下ろした。そして両手を顔に当てうつむいた。 その姿は小泉護衛隊隊長としての気迫は全感じられず、ただの「恋する女の子」といった感じだ。なんだ、この人も普通 の中学生なんだ。 いつもは突っ張っていただけか。と、オレは思った。そして、これは隊長じゃない。そう思えた。

まさき 「隊長。
    なんでバス降りたんですか?」
サチ隊長「・・・」
まさき 「隊長! いや、桜田幸子!!
    なぜ、バスから降りたんだ!
    ええ!
    何か用事があるんだろ!
    やるべきことがあったんだろ!」
サチ隊長「・・・」
まさき 「小泉護衛隊の義務、小泉先生の護衛を
    蹴ってまですべき大切なことが!」
サチ隊長「・・・」
まさき 「さくらだぁ〜!!
    確かめに来たのかぁぁぁぁ?
    それは何だぁ〜?
    『君はカズくん?』 イヤ違うっ!!
    『私こと覚えてる?』 イヤ違うっ!!
    『あの時のこと覚えてる?』
             イヤイヤ違うっ!!
    違う違う違ぁぁぁぁぁうっ!!
    お前はそんこと聞きに来たんじゃ無い!
    そうだろぉ〜? さくらだぁ〜?
    なぁ〜?  さ、く、ら、だぁぁ!!」
サチ隊長「・・・」
まさき 「もっと重要なこと。もっと大事なこと。
    それを伝えに来たんだろぉぉぉぉ!!
    なぁ! さくらだぁ!!
    心の奥の気持ち。熱い熱い思い。
    それを伝えに来たんだろうぉぉぉ!!
    
    な。
    桜田。
    伝えてこい。
    あの時のカズのように。
    相手がどう思ってるじゃなくて、お前が
    どう想ってるのか。ありのままを。
    隊長とか、年上とか関係なく、
    今はただの一人の人として。
    お前の素直な気持ち、
    伝えてこい。」

 サチ隊長はずっと黙ったまま聞いていた。
そして、オレが肩をポンと叩き優しく微笑むと、 サチ隊長はスッと立ち上がった。そして、オレの 顔を希望に満ちた眼差しで見つめた。

まさき 「いいや。礼には及ば・・・」
    「ゴォッ!!」

 「ありがとう。勇気がでたわ。」とか言うのかと 思ったら、グ−パンチが飛んできた。床に倒れる オレの横を、サチ隊長はカズのいる方へ歩いて 行った。

 

■題  名:その110 じゃらじゃら      【2000年08月25日】


まさき 「痛ってぇぇ!」

 ものすごい痛みではあったがそれ以上に隊長が 何をするのか気になって、オレはヨロヨロと立ち上がり後を追った。
 カズ、ゆうちゃん、他の隊員達は、まだここに 来て何もしていないというのに、土産物コーナーを あちこちうろついて、キーホルダーをじゃらじゃら いわせながら「これいいな。」とか「かわいい!」 とか言って騒いでいた。  そこへサチ隊長が現われ、ゆうちゃんと一緒に 店内を歩いていたカズの目の前に立った。

かずお 「!? な、何か?」
サチ隊長「・・・。
    聞きたいこと・・・。いや。話が、ある。
    ちょっと外に来てくれ、ないか。」

 言葉の語尾にいつもの迫力が無かった。 隊長はそのまま黙って外へ出ていった。少し離れた 所にいた隊員達も隊長に気付き二人を見ていた。 そしていつもと違う隊長の雰囲気に驚いたようで、 隊長が外へ出るまでただ見つめているだけだった。
 オレはカズのもとへ駆け寄った。

まさき 「おい、カズ! 聞いて驚くな!
    隊長の本名って桜田幸子って言って、
    あの! 桜田幸子本人なんだよ!」
かずお 「・・・わかってたよ。何となく。」
まさき 「そうか。
    ・・・隊長、お前のこと・・・」
かずお 「もう、終ったことだ。」
まさき 「・・・」

 カズはオレを押し退けるように外へ歩いていった。 ゆうちゃん、隊員達が一斉にオレのところへ集まり質問を浴びせかけた。

まさき 「隊長が告白するかも。カズに。」
一同  「ええっ!?」
まさき 「二人は半年前に知り合っていて、
    そして、「恋」になろうとする、まさにその時、
    運命のいたずらで一度離ればなれになった。
    そして、今日、偶然か必然か
    幸か不幸か再会した。
     さあ、二人はいったいどうなるのか?
    二人の恋の行方はいかにっ!?」

 オレ達は一斉に窓際に駆け寄り、二人を探した。

オバさん「いたいた! あそこ ほらっ!」

 オレ達が振り向くと、さっきまで「無闇に商品に触るんじゃねーよ」「五月蝿いガキどもだ」と いった顔をしてオレ達をにらんでいた店員達が 一緒に窓をのぞいていた。

オジさん「いや、なんか ドキドキするな。」
お姉さん「ほんと、ほんと」
オレ達 「・・・」

 

この日記に登場する人物、団体、事件等は、すべて架空のものです。
なお【00年00月00日】とは作者の書いた日付けで、
作品中の日付けとは関係ありません。

 

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