雑動部活動日誌11〜20

 

■書いた日:【2000年05月14日】

■題  名:その11 卒業生


 用務員のおじさんが来ない!?
ってどういう ことだ。オレ達は先生を問いつめた。

坂井先生「・・・いや、ちょっと、先生、
    ケンカしちゃってなぁ。おじさんと。」
まさき 「けんかって。くちげんかでしょ?
    そんなんで、来なくなるかな?
    いつから来てないんですか?」

坂井先生「3月の半ば頃かな・・・。昨年度の
    卒業式のあとからだ。」
かずお 「一ヶ月か・・・。よっぽどひどい
    こと言ったんじゃないですか?」
ゆういち「原因は何なんですか?」

坂井先生「う〜ん。卒業式の夜、卒業生数人が
    学校に来てな・・・。」

 その卒業生達は式が終わって帰ったあと、みんなでパーティーをしてたそうだ。卒業を祝い合い、そして3年間の思い出をなつかしく笑顔で語り合っていた。が、そろそろ「おひらき」というところで、ある一人がボソっとこう言った。

  「俺、もう一度学校を見たい。
  まだ、一度も見たことがない夜の校舎、
  だれもいない教室、廊下・・・
  3年間通った校門。
  もう一度、見ておきたい。」

その言葉に、生徒達は皆、黙っていた。

  「よし! 今から行こうっ!!」

  誰かがこう言った。
すでに時刻は8時をまわっていたが、反対する生徒は誰一人いなかった。

  「行こう! 行こうっ!!」

 

■書いた日:【2000年05月15日】

■題  名:その12 卒業生2


  卒業生達、計7人は校門の前にたどり着いた。
だれもが思い、口に出さなかったこと。でも、もしかしたら・・・と、歩きながら願っていたこと・・・。だが、その願いはかなわなかった。職員室の明かりは消えているし、校門も開いてはいなかった。
  暗闇の中にそびえる校舎を、卒業生達は、ただ静かに見つめていた。時間が経てば経つ程、空しさが込み上げる。
 何度もこの門を乗り越えようと思った。
が、卒業という言葉が、しんと闇にそびえる校舎が、それを拒んでいるようで、帰るきっかけを見つけられないまま立ち尽くしていた。

 どのくらい時間がたったのだろう。ほんとに偶然だった。まさに運命のいたずら。近所に住んでいる用務員のおじさんが、コンビニの袋をぶら下げながら通 りかったのだ。卒業生達の目はとたんに輝き出した。卒業生達の話しを聞いた用務員は、笑顔で承諾した。

 用務員の案内で校内を巡る卒業生達。
図書室、理科実験室、視聴覚室、保健室、音楽室・・・。
 各階の教室一つ一つ。卒業生達は必死にその目に焼き付けた。
 そして最後に、彼等は体育館に入った。暗闇の体育館に明かりが着くと、卒業生達は歓声をあげた。バスケ、バレーをひととおりやると、一人がステージに上がり、将来の夢を叫んだ。

  「俺は、ぜったい、俳優になるぞぉ〜!」

 そのあと他の卒業生も、思い思いに叫んだ。
  「私は、看護婦になるぞ〜!」
  「お、おれは、大金持ちかな!?」
  「僕は、カメラマン! ヌードのっ!!」
  「あたしは、イラストレーターになるぅ!」
  「きれいな嫁さんもらうぞぉぉ〜! ハハハ」
  「わたし、わたし教師になりたい・・・。
  この学校で出会った先生みたいに。そして、
  教えたい。友達って、いいよ・・・ってこと
  ・・・・ぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・」

  「ようし! 校庭にいくぞ〜!」

 沈みそうな空気を読んで、用務員はみんなを校庭に連れ出した。

 

■書いた日:【2000年05月16日】

■題  名:その13 卒業生3


 彼等はグランドのトラックを半周して、校庭を囲うように植えられた桜並木の下を、ゆっくりとゆっくりと歩いた。そして、ある桜の木の下で、卒業生達は立ち止まった。

 「・・・そうか。ここにタイムカプセルを埋めたんだな。
  ・・・そうか。楽しみだな。
   わたしが学生だった頃は、まだそんな洒落たことなんか
  無くてな。まあ、せいぜい体育館の裏の壁とか、
  朝礼台の下に「らくがき」したくらいかな。
  卒業の記念だ〜とか言ってな。ははは。」

  用務員がそう言うと、卒業生達は朝礼台に走りだした。
そして、朝礼台の下にもぐり込んだ。
   「うわ、結構書いてあるぞ。落書き。
  校長、話、長〜ぞ!
  このトラック本当に200かよ! ははは。
  で、だれか、ペンもってない? ペン?」

 用務員はペンを渡すと、朝礼台に座り込み、みんなが書き終ったのを確認して、話し出した。

 「いいか、みんな。今夜はこれでお開きだ。
 で、一つ提案だ、わたしも昔したことなんだが。
 ・・・ここから家まで、全力で走るんだ。
 ここでみんなと別れたあと、決して振り返らずに
 息の続く限り走り続けろ。そして、風呂に入って
 とっとと寝る。
  いいな、みんな。決して、振り向くな。」

  すでに目に涙を浮かべている者もいた。
  用務員は続けた。

 「・・・それじゃ、またあした。
  ・・・こう言って別れる。いいな。
  それじゃ、またあした。っだぞ。
  いまから、わたしがこのビールを投げるから、
 落ちたときが・・・その時だ。
  いいか、みんな。」

  卒業生達は用務員の手に握られたビールの缶をじっと見つめた。

 「よし、いくぞ!!
  そらぁっ!!!!」

 

■書いた日:【2000年05月17日】

■題  名:その14 卒業生4


 用務員の投げた缶ビールは、大きな弧を描く。
夜空の中を見え隠れするその缶を、卒業生達は必死に目で追った。

 「ガシュッ!!」

 缶ビールは、朝礼台と校門とのちょうど中間あたりに落下し、泡を吹いた。卒業生達は心を決め、その「言葉」を言おうと大きく息を吸った。と、その時だった。赤色灯が学校の生け垣に沿って、音も無く動いているのが見えた。そしてその赤色灯は校門の前で止まった。

  「・・・パトカーだ・・・!?」

  訳もわからず呆然としていると、二人の警官がこっちに向かって歩いてきた。

  「君たち、ここで何をしているんだい?
  こんな時間に! 学校で!
   なに? 中学生? ここの? ふんふん
  卒業式? 今日? へ〜。 ん!?
  あなたは? 用務員? ここの?
   いや、ちょっと、ですね。え〜。
  ちょっと、110番通報がありまして。
   学校で誰か騒いでるって・・・。
   近所の方から。
   そ、れ、じゃ、〜、ですね。
  詳しいお話を伺いたいんで、とりあえず、
  署の方へご同行願えますか?
   君たちも。」

  近くを通ったタクシーをひろって2台に分乗し、 警察署に向かった。

 

■書いた日:【2000年05月18日】

■題  名:その15 卒業生5


  警察署に着くと、小さな部屋に通された。
パトカーの中ではじめて、すでに10時をまわっていることに気が付いた。卒業生と用務員は簡単な質問をいくつかと、事情聴取を受けた。そして、用務員も同伴していたということで、軽い注意だけで済んだ。

  「近所の迷惑も考えるように。 なっ!。」
一同 「はい。すいませんでした〜。」

 警官が部屋から立ち去ると、卒業生達は顔を見合わせて思わず吹き出した。

  「笑いごっちゃないだろ〜。」

 そう言った用務員の顔も笑みを浮かべていた。
しかし、次の瞬間、彼等の笑みは一瞬にして消え去った。学年主任の小暮先生と担任の坂井先生が部屋に入ってきたのだ。

坂井先生「どういうことなんだっ!
     おまえらっ!! なに考えてんだ、
     ったく!
     笠井さんも笠井さんです(用務員)!
     なんで許可したんですかっ!
     近所住民の迷惑も考えてください!
    ただでさえ苦情が多いんですから。
     いまこの学校がおかれている立場って
     いうものを、少しは・・・」

 小暮先生「まあまあ、坂井先生。
      いいじゃないですか。過ぎたことは。
      本人達も反省してるようだし。
     ちゃんとわかってますって。ただ、
     ただちょっと、こう、気持ちが
     高ぶっちゃっただけだよな?
     なっ 君たちぃっ!」

  そう言う小暮先生の眼鏡。茶色のいろ眼鏡は、いつにもまして深く輝き、まるでサングラスのように威圧感を感じさせる。その表情は明らかに怒っている・・・ようだ。

 

■書いた日:【2000年05月19日】

■題  名:その16 卒業生6


 その後、卒業生達は「今から帰る」と家に連絡させられ、坂井先生が一人一人を家まで送るということになった。しかし、卒業生達は反対。自分達一人一人で帰ると言い張った。坂井先生は納得できなかったが、小暮先生はこう言った。

  「まあ、いいんじゃないの。うん。
  さあ、撤収! 撤収!!」

  小暮先生は卒業生達を連れて部屋を出ていった。
  用務員と坂井先生が部屋に取り残され、しばらくすると、また坂井先生の説教が始まった。

  「どうして入れたりしたんですか。
  あなたは止めるべき立場でしょう。
  それを一緒になって校内をうろつくなんて。
  信じられませんよ。
   わたしたちに何の連絡も無しに。
  夜中の10時過ぎまで。
  生徒の家族から捜索願いでも出たら、いったい
  どうするつもりだったんですか。
  もっと責任ある行動をとってください。
  まったく・・・。」

  「あなたは校門の前で立ち尽くす彼等の
  顔を想像できますか」

  「はあ?」

  「あなたは校舎をただじっと見つめる彼等の
  目を思い浮かべられますか」

  「なんの関係があるんです。それが。」

  「わたしには、彼等のその願いを潰すことは
  できなかったし、彼等の気持ちがわかる人なら、
  ましてや普通の教師なら、きっと同じことを
  したと思います。」

  「!?・・・それはどういう意味ですか。
  わたしが普通の教師じゃない、一人前の教師
  じゃない、生徒の気持ちがわからない!
  ッとでも言うんですか!!」

  「さあ、どうでしょうかね。
  現に、担任でありながら、今の今まで、彼等か
  らあなたに今回の出来事の相談は無かったわけだし。」

  「むむ! なんですて!?
    あなたに何がわかるというんです!
  教師でないあなたにっ!」

  「な、に、が、わかる?だと〜!!」

  「なんの苦労も知らないくせに!」

  「なんだとぉ〜!!」

  「はいっ!! そこまでっ!!!」

  警官が部屋に入って来て二人を止めた。

 

■書いた日:【2000年05月20日】

■題  名:その17 卒業生7


  用務員は無言で部屋を出ていった。

 警官「どうしたんです。大声だして。」
 坂井「いえ。なんでもないです・・・。」

 用務員がツカツカと足音をたてて通路を歩いて行くと、外に卒業生達がいるのが見えた。早足で外に出てみると、卒業生達は一列に並んで待っていた。用務員に気付いた小暮先生が、近付いて、こう言った。

 「あなたが来るまで帰らない、と言いまして。
  何か、何か言いたいことがあるみたいですよ。
  生徒達・・・」

  用務員が卒業生達の方へ目をやると、彼等は深々と一礼をし、一人が缶 コーヒー2つを用務員に手渡した。

  「これ、どうぞ。ホットコーヒー。
  さっきのお礼です。
  ビールじゃないですけど・・・。」

 そう言って列に戻ると、大きく息を吸って何か言おうとした。

 「・・・それじゃ・・・ま・・・」
 「まてっ!! おまえら。
  警察署だから缶は投げられないと思ったのか。
  甘いな・・・。
  わたしを誰だとおもってるんだ。
  ただの用務員のおやじだと思うなよ!」

 そう言って用務員は大声で笑うと、手にぶら下げた袋から缶ビールを取り出し、大きく振りかぶった。

 「やっぱりビールでなくっちゃな。
  泡がポイントなんだよ。
   よし、用意はいいか!
   いくぞ〜!
  ずぅおりゃっ!!」

 用務員の投げた缶ビールは、さっきよりちょっと小さめの弧を描いて飛んでいった。

 

■書いた日:【2000年05月21日】

■題  名:その18 卒業生8


 「ガシュッ!」

 卒業生達は身体を缶の方から用務員の方へ向けると、目を見合わせ、一斉に叫んだ。

 「それじゃ、またあしたっ!!」

 そして軽く頭を下げると、まわれ右をして、
一人また一人と走り出し、夜の町に消えていった。
 用務員は走り去る彼等の姿を、笑顔で見送った。

 小暮先生「・・・大丈夫ですかね〜。
     心配です。」

 用務員 「え? 何がです?
     帰り道ってことですか?
     それなら大丈夫です!
     強盗だろうが、パトカーだろうが、
     たとえ百万円が落ちてたとしても、
     今の彼等を止めることはできないでしょう。
      はははははは。」

 小暮先生「いや。そうじゃなくて。
     笠井さん。あなたのことですよ・・・」

 用務員 「は? わたし?」

 気付くと用務員の後ろに守衛の警官が立っていて、そっと腕を組んできた。  

警官  「いま、缶を投げたのは、あなたですよね?
     ちょっと、2、3伺いたいことがあるんで、
     来てもらえます?」

用務員 「え?」

 こうして用務員は今夜2度目の注意を受けた。

 

■書いた日:【2000年05月22日】

■題  名:その19 坂井悩む


まさき 「そりゃ〜、先生が悪いわ。」
かずお 「きっついなぁ〜 」
ゆういち「感動じゃないですか〜 」

 3人は先生をにらみつけた。

坂井先生「そうだよな〜。今思えば、
     なんであんなこと言ったのかな〜
      って思うんだけどな。
     そんときは、興奮してたんだろうな〜。
     この学校に転任になって、
     最初に受け持ったクラスでな。
     けっこう熱血教師やってたんだ、これでも。
    でも、その生徒。あいつらに何の連絡も、
    相談も無かったってのが、なんて言うか、
    ちょっと、ショックだったんだな〜。
      うん。 それをズバリ言われたっていうか、
    生徒に裏切られたっていうか・・・。

     まあ、あいつらにしてみれば、
     頼んだところですぐに許可はでないだろうと
    考えていたんだろうけどな。
     あの日、あの時、だからこその、思い、
    行動だったんだろう。
     あのあと、ずっと考えな。
    もし、そこにわたしが通りかかっても
    用務員と同じことをしただろうな〜。
     もし、わたしが生徒の立場だったら
    どんなにうれしいか って。」

かずお 「なんだ。もう、整理はついてんじゃん。
    もう答えは出てるんじゃん。
    あとは、することするだけじゃん。
      早くやることやって、雑用は終わりにしようぜ!」

まさき 「おまえ。簡単に言うけどな。
    難しいぞ〜、そういうの。」
ゆういち「そう。でんわ、でんわ。」

坂井先生「・・・いや。それがつながらないんだ。
    出ないんだ。でんわに。
    家にはいるみたいなんだけどな・・・」
まさき 「・・・しょうがない。
    かず、ゆうちゃん。
    いっちょ、行っとく?」

 

■書いた日:【2000年05月23日】

■題  名:その20 美松荘


 嫌がる坂井先生を、オレ達は強引に連れ出した。
 途中、「用事がある」とか言って何度も先生は逃げようとしたが、巨体のゆうちゃんが組んだ腕を振り切ることは出来なかった。

かずお 「あのアパートが、そうですよね?
    先生?」
坂井先生「・・・・・・・・」

 先生は何も答えずそっぽを向いている。おれと ゆうちゃんに両腕をつかまれ、先生はまるで捕らえ られた宇宙人のようだ。住所は、かずおが職員室にいって聞いてきたので 間違いないはずだ。

まさき 「んじゃ。いこう。
     何号室だ?」
かずお 「202号室」

 入り口の塀には「美松荘」と書いてある。
 そのアパートはかなり古いようで、壁にはところ どころにヒビわれがある。階段の下にあるシートの かけられたバイクには、段ボールやバケツが置かれ ほこりをかぶっている。建物の敷地内には子供用の 自動車や、シャベル、三輪車などが散らばり、足跡 だけが残っている。
 塗装がはがれ錆だらけの階段を、「カン、カン」 と上っていくと、202のプレートが貼られた戸が すぐに見つかった。戸の横には植木鉢やら盆栽やら がところせましと並んでいる。その上へと目をやる と表札があった。

まさき 「あっ! 笠井って書いてある!」
かずお 「ここだ。間違いない。」
ゆういち「さぁ。先生。」
坂井先生「・・・・・・・」

 

 

この日記に登場する人物、団体、事件等は、すべて架空のものです。
なお「書いた日」とは作者の書いた日付けで、
作品中の日付けとは関係ありません。

 

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