雑動部活動日誌21〜30

 

■書いた日:【2000年05月23日】

■題  名:その21 美松荘2

 オレはベル(呼び鈴)を押そうとまわりを見渡 したが、みつからない。仕方ない。オレはドアを 叩こうとした。と、その瞬間。ド、ド、ド、ド、 ガチャ、キ〜ッ、
 「キャハハハハハッ!」
 「もももも〜ん!!」
 子供が二人飛び出てきた。 手にはロボット、もう一人は飛行機を持っている。 その幼稚園児くらいの子供達は、オレ達の間を勢い よくすり抜けると階段を転がるように降りていった。  こいつら階段から落ちるんじゃねぇかと、心配し て下を見ると、三輪車とおもちゃの自動車にまたが って奇声を発していた。  びっくりをとおりこして、ただ呆然としていると、

女性  「おや、坂井先生ですか!」

と、背後から女性の声。

4人一同「 ひいぃ!?」

 口をあけたまんま。だ液が飛び散るかのスピード で、オレ達は一斉に振り向いた。  その形相に女性は後ずさりした。一歩、二歩。

女性  「さ、坂井、先生、ですよね?」
坂井先生「・・・は、はい。」
女性  「また、来てくださったのですか?
    何度も、何度もすみません。
    ほんと、うちの主人、強情で。
     いい歳して大人気ないって、毎日の
    ように言い聞かしているんですけれど。
     なんか戻るに戻れなくなったみたいで。
     ほんと、どうしようもない人で。

     そちらは生徒さんですか?
    坂井先生の受け持ちの?」

まさき 「先生は僕らの部の顧問です。
    その名も
    雑動部っ!!」

 

■書いた日:【2000年05月25日】

■題  名:その22 奥さん

 雑動部と聞いて首をかしげる奥さん。
目線を上に向けて激しくまばたきをしている。 雑動部とは何か。必死で考えているようだ。

かずお 「まぁ、それは置いといて。
    ご主人いらっしゃいますか?」

奥さん 「・・・ん、は、はい?
    主人ですか?
    いま、出かけております。
    すぐ戻ると思いますけど・・・。
     それで、あの〜。
    雑動部ってなんでしょうか?
    部活動ですよね?」

 とても気になるらしく、奥さんは身を乗り出して 尋ねてきた。目を大きく見開き、オレ達の顔を見つ める。まばたきはやっぱり早い。

まさき 「いや。別に、そんなたいしたもんじゃ
    なくて。」

 奥さんはオレの目をじっと見つめた。目をそらし たいのにそらせない、すごい眼力。とてもしゃべり にくい。

まさき 「え〜、ただ、いろんなことを・・・」

 そう言いかけた時、階段の下から声がした。

男   「お〜! ター坊! 元気か?
    ママはおでかけか〜?
    こら! あっくん! 靴投げるな!
    ちゃんとかたずけとけよ〜。
    またママにしかられるぞ〜!
     ガハハハハハ」

坂井先生「・・・笠井さんだ・・・」

 

■書いた日:【2000年05月26日】

■題  名:その23 ダッシュ

 笠井さん(用務員)は何かいろいろ入った紙袋を 抱えている。
 カンッ、カンッ、カンッ、カ・・・。
 階段を上がってきた笠井さんは、オレ達に気付い て足を止めた。

坂井先生「・・・やっと、会えましたね。」
笠井  「わたしは会いたくなかったがな。」
坂井先生「どうしていままで会ってくれなかったん
    ですか?
     お話ししたかったのに。
     体調が悪いとか、居留守とか。
     電話しても出てくれない・・・。」
笠井  「別に話すことはない・・・」

 そう言うとゆっくり階段を下りて、子供達の そばへ歩いていった。

笠井  「ほら。ター坊。これやるから。
    お菓子。あっくんと二人で食べな。
    ママには内緒だぞ。」

 抱えていた紙袋を子供達の足元に置くと、笠井さ んは静かに振り返りそっと目を閉じた。  坂井先生は大きなため息を一つして、笠井さんの ところへ行こうと階段を一歩下りた。
と、その瞬間、笠井さんはダッシュで逃げ出した。

四人一同「あっ!!!!」

 想像もしなかった出来事にオレ達はただその後ろ 姿を目で追うしかなかった。

 

■書いた日:【2000年05月27日】

■題  名:その24 しぶしぶ 

 坂井先生は笠井さんを追って町並に消えた。

ゆういち「どうする? ぼく達。
    追いかける?」
まさき 「別にいいんじゃない。追わなくて。」
かずお 「そう。戻ってくるかもしれないし。」
まさき 「ここで待ってよう。しばらく。
    ・・・う〜んと、十分くらい。
    いや、五分くらいかな?」

奥さん 「・・・君たち、冷めてわるねぇ・・・。
     最近のコはみんなそうなんですか?
    あたしらの頃は、いつも走ってたけど。
    やれ何があったとか、やれ何が起ったとか、
    それこそ、動くものなんでも飛びつく
    いぬッコロみたいに・・・。
     ところで・・・
    さっき言ってた雑動部ってことについて
    なんですけど・・・」

ゆういち「あっ!! いたっ!!!」

 突然ゆうちゃんが小さく声をあげ、指さした。 見ると笠井さんが歩いてくる。 コンビニの袋をさげて。
 まだオレ達に気付いていないようだ。

奥さん 「ねぇ〜、雑動部って、なに?」
まさき 「えっ!?」

 奥さんも気付いてない!

かずお 「やばい! 気付かれた!!」
まさき 「おいお〜い! なんてこった!!」
ゆういち「追いかけよう!」
まさき 「しょうがねぇな〜」

 オレ達は渋々追いかけた。

 

■書いた日:【2000年05月28日】

■題  名:その25 部長!

 「・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 オレ達は笠井さんを追いかけた。

 「け、けっこう、は、はやいぞ・・・」

 簡単に追いつけると思っていたが全く距離は 縮まらない。笠井さんはすれ違う歩行者や自転車 を機敏にかわし、坂道、階段も平然と駆け抜けた。

まさき 「笠井さんって、いくつ、なんだろ、」
かずお 「五十、か、そこら、じゃない?
    まだ、六十、は、いって、ないん、
    じゃない?」
ゆういち「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
まさき 「と、とても、そうは、見えねぇ」

 笠井さんのペースは落ちる気配もない。
 距離は縮まるどころか、少しずつ離されていく。 植木を飛び越え、塀を乗り越え。
 時々後ろを振り返るその顔には、笑みさえうかが える。

まさき 「に、人間なのか・・・」

 そしてある角を曲がって長い上り階段の道に出た。 ゆうに二百段を超える地獄の階段。笠井さんは知っ てて来たようだ。 オレ達が角を曲がった時、笠井さんは一段飛ばし で駆け上がり、すでに三分の一に達していた。

ゆういち「うわっ! もうだめ!
    動けない!」
かずお 「お、おれも。もう死にそうだ。
    あとは頼んだ。」

 これは笠井さんの心理作戦なのか。

 「部長! がんばって〜!」

まさき 「ちぃ、おまえら!」

 

■書いた日:【2000年05月29日】

■題  名:その26 何者!?

 オレが階段を二三歩「登り」始めた時、笠井さん はすでに半分を超え、なおも勢い衰えることなく 一段飛ばしをしていた。

まさき 「はぁ、はぁ、はぁ。
    こりゃ、無理か・・・」

 あまりの力の差にもはや気力を無くし、手すりに つかまりとぼとぼと上っていく。

まさき 「オ、オレは、なにをしてるんだ・・・
    なんでこんな目に。」

 オレが三分の一に達した時、笠井さんはあと十数 段を残すのみとなっていた。  もう動く体力もなく、オレは手すりによりかかっ ていた。

まさき 「あ〜ぁ、終った・・・」

と、そのとき、頂上に誰かが現われた!

坂井先生「お遊びは、ここまでですっ!!」

 先生はそう叫ぶと階段を駆け下りた。オレも その声を聞いて思わず駆け上がっていた。  先生と笠井さんの距離が縮まる。

坂井先生「もう逃げられませんよっ!!」

 笠井さんはオレの方をチラっと振り返ると、 先生に向かって言った。

笠井さん「ふっ。あまいな・・・」

 笠井さんは笑みを浮かべると、突然忍者のように 大きく飛び上がり、手すりに飛び乗った。 そして、そのまま腕を組んで、立ったまま手すりを 滑り下りていった!

笠井さん「さらばだ、明智く・・・いや
    坂井君っ!!
    ははははははははははっ!!」

坂井先生「・・・・・・!?」
まさき 「あんたいったい、何者なんだ・・・」

■書いた日:【2000年05月30日】

■題  名:その27 いない!

 大きな笑い声がだんだん遠ざかっていく。
 下には、かずとゆうちゃんがいるはずだ! と思ったが、いなかった。

まさき 「どこいった! こんな時に!!」

 先生がオレのところまで下りてきた。

坂井先生「くっそ〜。
    なんでおまえ、捕まえなかったんだっ、
    真横をすべっていったろ〜。」
まさき 「そ、そんな〜。
    無理ですよ〜!!
    あのひと、人間じゃないですよぉ。」
坂井先生「足引っ掛けるとか、タックルとか。
    できたろぉ。
    ああああぁ〜!!
    悔しいっ!!」

笠井さん「はははははははははっ」

坂井先生「そういえばあとの二人はどうした?」
まさき 「・・・さぁ。」

 笠井さんは下まで到達して、手すりからジャンプ。 きれいに着地してそのまま走っていくだろううと、 オレと先生は思った。

笠井さん「あっ!!」
かずお 「うわっ!!」

 突然、角からかずとゆうちゃんが、缶ジュースを 飲みながら現われた。  笠井さんはゆうちゃんの胸へ、吸い込まれるよう に飛び込んだ。

まさき 「ナイスキャッチッ!!」

 

■書いた日:【2000年05月31日】

■題  名:その28 だっこ


 「カランッ」
 ゆうちゃんの持っていた缶が地面に落ちた。
笠井さんはゆうちゃんに抱きかかえられたまま 動かない。
ゆうちゃん、笠井さんはもちろん、 カズもびっくりした表情で、見つめあっていた。
 オレと先生は急いで階段を下りていった。

笠井さん「おい、少年。
    ジュース落ちちゃったな・・・。
     ビール、やるから、
    見のがしてくれねぇかな?」

 笠井さんは袋から缶ビールを取り出すと ゆうちゃんの顔の前に差し出した。

ゆういち「・・・だめです。
    それにぼく、未成年ですから・・・」
笠井さん「そ、そうだよな。 ハハ。」

 差し出した缶ビールの処理に困った笠井さんは、 そのまま自分で飲みはじめた。

笠井さん「くぅ〜! うまいっ!!
     抱きかかえられながら飲むビール
    ってのは、また、かくべつだね!
    ・・・・・・・・・」

坂井先生「いい加減にしてください。」

 オレと先生はやっと下まで下りてきた。

坂井先生「どういうつもりなん・・・」
笠井さん「まあ、まて。立ち話もなんだから。
    わたしは立ってないけどな・・・。
    ははは。わらごっちゃないな。
     近くに喫茶店があるから、
    そこで話そう。な。」

 オレはあやしいと思ったが、 坂井先生は黙ってうなずいた。

 

■書いた日:【2000年06月01日】

■題  名:その29 風川


まさき 「・・・かぜ・・・かわ!?」
笠井さん「ふうせん、と読むんだ。」

 にぎやかな商店街から少しはずれた路地、 知らない人なら気付かずに通り過ぎてしまうような ところにその喫茶店、風川 があった。  オレ達は店に入り、窓側のテーブルに座った。

店員  「お。笠やん・・・。
    どうしたん? 今日、二回目じゃん。
    それにこの面子・・・。
     はいはい。わかりました。
    消えます。消えますって。すぐに。
    もう。
     御注文は何に致しましょう。
    いつものやつ。はーい。
    で、そちらの方は? コーヒー。
    君たちは? 」
かずお 「アイスティー。」
まさき 「カツサンド。
     と、コーラ。」
ゆういち「スパゲッティ−ナポリタン。
     ビーフカレー。
     チョコレートパフェ。
     オレンジジュース。」
店員  「い・・・以上で、よろしいですか?
    かしこまりました・・・。」

 店員は早足でカウンターの奥の調理場へもどると、 ガチャガチャと音をたてながら注文の品を作り始め た。彼の口は始終動いていて、よく聞き取れなかっ たが、「店長どこいったんだよ」とか「この時給 じゃあわねぇよ」とか言っているようだった。

坂井先生「それ、自分で払えよ。」
まさき 「え〜! オレ金もってね〜よ!
    校則で持ってきちゃだめって。」
坂井先生「でも、持ってきてるんだろ。」
まさき 「・・・・・・うっ!」

 

■書いた日:【2000年06月02日】

■題  名:その30 辞表


笠井さん「うん。実はな・・・」

 オレ達が尋ねる前に笠井さんの方から話を始めた。

笠井さん「じつは、もう、
    辞表を出してあるんだ。」
坂井先生「え!?」
笠井さん「いや。まだ受理はされてないけどな。」

 オレ達は笠井さんの話に集中した。

笠井さん「あの次の日、辞表を出しに校長のところ
    へ行ったんだが・・・いなくてな。
     それじゃあと思って教頭を探したんだが、
    教頭もいなくて。
     いやこりゃどうしようと思ってたら、
    ちょうど小暮先生が現われて。
    話を聞いてくれて・・・。
           で、小暮先生、
    『とりあえず私がお預かりします。』
    って言ってな。ああ、小暮先生の方から
    後日渡してくれるのかと思ったら、
    『でも預かるだけで、提出はしません。』
    と言うんだ。
     どういうことですかと聞くと、
    『しばらくの間、休みをとりましょう。
    長期休暇。学校とか、仕事とか考えずに。
     一ヶ月でも、二ヶ月でも。
     それでもまだ気持ちが変わらないよう
    でしたら私にそう言って下さい。辞表を
    提出します。前に預かってたんですけど
    忘れてましたぁってね。はは。
     でも、もし気持ちが変わっていたのな
    らば、また学校に行こうと思ったのなら
    ば・・・今までどうり、昨日までと同じ
    ように、何もなかったように、普通に、
    学校に来て下さい。 ね。』
           そう言って辞表を奪い取ると、
    笑いながら歩いていってしまってな。」

 笠井さんは腕を組んで目を閉じている。オレ達は 黙ったまま、再び話しだすのを待っていた。  そこに店員が現われ飲み物を置いていった。  コーヒー。アイスティー。コーラ。 オレンジジュース。バナナパフェ。

まさき 「バナナパフェ!?」
笠井さん「そう。いつものやつ。」

 

この日記に登場する人物、団体、事件等は、すべて架空のものです。
なお「書いた日」とは作者の書いた日付けで、
作品中の日付けとは関係ありません。

 

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