雑動部活動日誌71〜80

■題  名:その71 緊急会議       【2000年07月13日】


坂井先生「それじゃあ、15分後、10時50分のバスに乗るぞ。
    いいか、みんな!」

 この園内をまわる乗り合いバスは、30分に 一本位の間隔で出発している。中はそれぞれの動物、種類(ライオンゾーンやシマウマゾーン)に区切られており、一通 り廻ってくるには長くて(乗用車が渋滞していると)1時間位かかる。と、案内図、説明書きに書いてあった。
 オレ達雑動部は緊急会議を開いた。

まさき 「どうするよ、カズ。ゆうちゃん。」
かずお 「ほっとけば? 別に一緒に
    なったってオレ達には関係ないじゃン。
     その護衛隊?だとかに。
    っていうか、護衛隊ってなんだよ?」

 オレは二人に説明した。

ゆういち「へ〜。そんなのがあるんだ。」
かずお 「・・・・・・・」
まさき 「坂井先生も隊員になったみたいだし。」
かずお 「・・・そりゃぁ、表向き・・・だな。
    魂は売ってない思うぜ。」
まさき 「は?」
ゆういち「小泉先生を守りたいっていうんじゃなくて?」
かずお 「おそらく。
    公然と小泉先生に近付けるから・・・
    だと思うな。」
まさき 「なるほど。」
かずお 「ライバルに差をつけるって意味もあるだろうな。
     たぶん、他の教師の中にも小泉先生を好きな奴は
     いるだろうからな。」

まさき 「おぉ。そうそう、言ってた! 言ってた!
    11人いたって!」
ゆういち「じゅう、いち、にん・・・」
かずお 「ハッ! 笑えねぇ〜よ。」
まさき 「あ!? おいお〜い!
    こんなこと話してる時間はないぞ〜」

 バスの発車まであと9分チョイ!!

 

■題  名:その72 ふれあい      【2000年07月14日】


まさき 「どうすんだよ〜!!」

 この入園券売り場の建物から20m位歩くと、 バス乗り場があり、さらに20m位 いくと、最初のゾーンへの厳重に警備されたゲートがある。入園券売り場の建物は売店やら土産店などあり、 併設する遊園地とつながっている。 他のみんなは、壁にある園内地図や各ゾーンの 解説などを眺めていた。

まさき 「やばいやばいやばい」
かずお 「おい。あれみろよ。」

 カズが指差す方へ目をやると、窓のむこうに 「ふれあいコーナー」と書かれた看板が見えた。 うさぎやハムスターなどを、じかに触れられるようだ。

かずお 「あれだ。 誘ってきてよ!」
まさき 「え? オレがか? いや来ね〜よ。」
かずお 「じゃぁ。ゆうちゃん。頼むよ。
    ずっと話してたじゃン」
ゆういち「うん。わかった。聞いてみる。」
かずお 「う〜ん、あと7分か・・・。あ!?
    マムー! あの時計、届く?」

 高さ3m位の所に大きな壁掛け時計があった。

まさき 「無理だろう・・・。」
かずお 「遅らせてよ、10分位!」
まさき 「ええ!」

 ゆうちゃんが護衛隊を連れて外へ出た。 が、渋い顔をしている。隊員達は時間を気にしていてあまり乗り気じゃないようだ。 しかも、サチ隊長は先生達のそばのベンチに座ったまんまだ。

かずお 「ちぃ〜。一人残ったか・・・。
    まあ、しょうがない。とりあえず外の4人だ。
     マムー! オレがゆうちゃんとこ
    行くまでに時計をなんとかして!」

 カズは走って行ってしまった。
何とかしろって・・・どうすんだ。 ジャンプしてみた。
届かない。あたりまえだ。 助走をつけてみた。届かない!ったりめーだ!
 バス発車まで残り6分チョイ!

 

■題  名:その73 人目      【2000年07月15日】


まさき 「う〜、届かない!」

 オレは周りに踏み台になるものや、棒などがないか見渡した。しかし、なにも見当たらなかった。  近くにベンチがあったが、それにのってもまだ、 届きそうにない。なにより、人目が気になる。 いくら有名でない所とはいえ、結構、人がいる。 売店の店員も気になる。

まさき 「ん!?
    立てればいいのか。ベンチ。」

 ベンチが置いてある所から時計の下まで10m位。 オレは覚悟を決めて、運ぶことにした!

まさき 「うぉりゃっ!!
    クックククク、ク、ク・・・」

 引きずって音が出ないように、抱えるようにして運んだ。

    「ゴトッ!」
まさき 「うわぁぁぁぁぁ〜! きっつぅ〜!!」

 なんとか時計の下まで持ってきた! これを壁に立てかければ、なんとかなるはずだ。 と、そのとき、

園内放送「当園のバスの発車時間、5分前になりました。
     御利用のお客さまは、御乗車になってお待ち下さい。」

まさき 「うわああ! 余計なこと言うな〜!!」

 オレは慌てて外を見た。 ラッキー! 隊員達は「キャーキャー」言って 聞こえていなかったようだ。カズは「早くしろ」 と口をぱくぱくさせている。  気を取り直してベンチを立てようとした時、

サチ隊長「何やってんだ? お前?」
まさき 「うおおおお!!」

 なんということだ!

まさき 「いや、ちょっと・・・ハハ。」

 もう、おしまいだ・・・。

 

 

 

■題  名:その74 てにをは      【2000年07月16日】


まさき 「いや、ちょっと・・・」
サチ隊長「ちょっと?」
まさき 「と、時計が・・・」
サチ隊長「時計が?」
まさき 「いや、時計を・・・」
サチ隊長「を?」
まさき 「時計・・・は・・・」
サチ隊長「は?」
まさき 「に・・・」
サチ隊長「に!?  時計がどうかしたのか?」

 なんて言えばいいんだ! おそらく隊長は今の放送を聞いて、隊員を呼びに 来たに違いない。その途中、オレの不審な行動に 気付き話しかけてきのだ。

サチ隊長「おい! 時計に何かあるのか?」
まさき 「・・・・・・・」
サチ隊長「おい!!」
まさき 「あ、いや。ちょっと。 届くかな〜?って。」
サチ隊長「届く? 届くと何かあるのか?」
まさき 「・・・」
サチ隊長「おい!」
まさき 「え〜、届くというか、取るというか。」
サチ隊長「取る? 取ってどうするんだ?」
まさき 「・・・」
サチ隊長「おい!!」

 そんなこと言われても・・・。 遅らせるつもりでした。なんて言えない。 言い訳を考えて、きょろきょろしていると、 カズが外で口をパクパクさせているのが目に入った。

まさき 「え〜っと。カズが・・・ですね・・・」
サチ隊長「カズ? 橘のことか?」

 さらに、カズが自分の腕時計を差して、 「時間! 時間!」といっている姿が見えた。

まさき 「時計を、腕時計を・・・くれるって。」
サチ隊長「腕時計?」

 うそ(言い訳)案が固まった。

まさき 「そうそう! カズのヤツが
    『あの時計取ってこれたら、オレのこの
    腕時計やるよ! まぁ、無理だろうけど』
    とか言ったんで・・・」

 これでなんとか納得してくれるのか?  サチ隊長は、バッ!っと、カズの方を見た。 カズは驚いて腕時計に指を当てたまま止まった。

サチ隊長「・・・。
    その腕時計。私がいただこう。」
まさき 「え?」

 

■題  名:その75 その走り!      【2000年07月17日】


まさき 「え?」

 サチ隊長は、数秒間時計を凝視すると、その時計に向かって走り出した。

まさき 「あ、ちょっと・・・!」

 オレは「・・・無理ですよ!」っと言おうとしたが、その走りの力強さに、思わず見入って しまった。その走りは、体操競技の種目、跳馬の助走のようであり、棒高跳びブブカ選手の助走のようであった。  そしてサチ隊長は、ダンッ!! っと、ベンチ を両足で蹴り、全身をのバネのようにして跳び上がった!
「が、まだ少し、足りないか!?」っとオレ が思うよりはやく、
「パンッパンッ!」っと サチ隊長は壁を蹴り、さらに上へと舞い上がった!

まさき 「!?
    ・・・・・・・・・・・マジかよ・・・」

 ゆうゆうと時計を手にしたサチ隊長は、「蝶」のように静かに舞い降りた(着地した)。  そしてオレの方へ歩いてきた。

サチ隊長「これで、腕時計もらえるのか?」
まさき 「・・・え・・・ええ。」
サチ隊長「ハハ。いや、別に欲しくはないんだけどな・・・。
     ちょっと確認したいことが・・・。
     見るだけでいいんだ。
     お前がもらってきてくれ。私はいらないからさ。
     ついでにみんなを呼んできてくれ。」

 オレは今見た光景に驚き、呆然としていて サチ隊長が何を言ってたかあまり聞いていなかった。 だが、サチ隊長から時計を渡されると無意識に カズの方へむかって歩いていた。  外へ出るとカズが走ってきた。

かずお 「おいおい! なに時計持ってきてんだよ!
     遅らせるだけで元に戻さなきゃ!」
まさき 「飛んだんだ・・・あの女。
    飛んだんだぜ!見てなかったのかよ!」
かずお 「なんのことだよ?
    それより隠せ隠せ! ほら! あっ!」

 ガシャン!
まさき
かずお 「ああっ!!」

 時計を落としてしまった。

 


■題  名:その76 弁償!?      【2000年07月18日】


まさき 「やっべ! ガラス割れちったよ!
    これ・・・ 弁償かな?」
かずお 「今は時計じゃなくて、時間!
    やばい。みんなこっちへ来るぞ。」

 カズは落ちた時計の針をすすませ、 腕時計の時間を遅らせた。

隊員A 「なに、その時計? どうしたの?」
まさき 「え? これ・・・え〜と・・・」
かずお 「壊れてるみたいです。
    中の壁にかかってたやつなんですけど、
    ほら1時間ちょっと進んでます。」

 そういって、腕時計を見せた。 カズの腕時計は10時49分をさしていた。  「ああ。まだ5分あるんだ。じゃもう少し」 なんてこと・・・言うはずがない。  この作戦自体、無理があるんだ! と、 今さらながら思った。

隊員B 「そろそろ、バスに乗ろうか?」
隊員一同「そうだね。うんうん。」

 もう笑うしかない。

まさき 「ハハ。そうそう。うん。
    乗ろう。乗ろう。乗っちゃえ!
    もういいさ! ささ。乗る乗る」

 オレはもうヤケになっていて、隊員達の肩を ポンポン叩きながら言った。

かずお 「・・・。 !?  あ! 皆さん!
      服に何か付いてますよ! ほら!
    触れあいコーナーで付いたんじゃないっすか?
    首のとこ!」

 隊員達はみんな首元を見ようとしたが、 よく見えない様子だ。

かずお 「まだ、時間あるから、トイレの鏡でも
    見てきたらどうっすか?」
隊員  「あ、じゃ、ちょっと。」

 隊員達はみんなトイレにいった。 オレが見た限り、まあよく見れば汚れてる、 といった感じの汚れだった。しかし、首元ではなく、肩だ。  それって! オレの手のあとじゃね〜のか!? オレはそっと自分の手を見てみた。汚れてる。 時計に付いていたホコリのようだ・・・。

かずお 「なんか言われたら部長が責任とってくれよ!」
まさき 「なっ!?」

 

■題  名:その77 発車時刻     【2000年07月19日】


 あと1分ほどでバスが出発する時間だ。 隊員達はおそらく、間に合わないだろう。 残るは隊長ただ一人!

かずお 「もし、彼女たちが出て来たらさ、
    オレとゆうちゃんで、
    『もうでちゃいました。』とか
    『定員オーバー』とか言って、ごまかすからさ、
     残りの一人、マムーなんとかしてよ!」
まさき 「オレがか?」
かずお 「あと1分ないぜ!
      引きずり下ろすくらいの気持ちでな!」
まさき 「お、おう。
    あ、そうだ。腕時計貸してくれよ。」

 坂井先生は小泉先生を連れてすでにバスに乗っており、ちょっと引きぎみの小泉先生に、絶えまなく話しかけていた。サチ隊長はバスの横に立っていた。 オレは走って近付いた。

サチ隊長「あれ? みんなはどうした?
    呼びに言ってくれたんだろう?」
まさき 「え。
    (言われたような言われてないような。)
    いや。  皆さん。トイレにいってくるって・・・」
サチ隊長「ちっ! しょうがね〜な〜。
    もう時間だってのに・・・」

 サチ隊長は腰と額に手を当てて、呆れた様子で バスに乗り込んだ。
 おっと! それはまずい! っとオレは 慌てて言った。

まさき 「それより、これ! どうぞ!」

 オレはカズの時計を差し出した。差し上げた!? 贈呈かな。カズには諦めてもらうしかないな、 この腕時計・・・。

サチ隊長「ん? ああ。
     ・・・。」

 サチ隊長はその腕時計を手に取ると、 ジッと見つめたまま動かなくなった。

運転手 「バスの発車時間で〜す!
    皆さん、ちゃんと座席に付いてくださ〜い!。」

 ああ、タイムオーバー・・・。
これで、部に昇格・・・遠くなったな。

 

■題  名:その78  OKサイン      【2000年07月20日】


 発車時刻になってしまった。
坂井先生がバスの中からこっちをちらちら見ている。
「ちっ、しくじりやがって!」ってな顔をして・・・。
「こんなことできる訳ないだろ! あんたの考えの方がおかしいんだ! 根性、腐っとんねん!」 と、こころの中で叫んだ。

まさき 「さあて。
    今日はとことん楽しんでいくかな!
    明日からの分も・・・」

 オレはカズ達のところへ戻ろうと、バスを離れた。

運転手 「お客さん!
    乗るんですか? 乗らないんですか?
    ・・・!?   もいも〜し!
    そこの、お姉さ〜ん?」

 オレが振り返るとサチ隊長がまだ動かずにいた。 バスの中にいた小泉先生は心配して近付いた。

小泉先生「どうしたの? 桜田さん?」
サチ隊長「・・・。」
小泉先生「気分でも悪いの?」
サチ隊長「・・・先生・・・」
小泉先生「なに?」
サチ隊長「ちょっと、急用が出来まして・・・。
    すみません。
     私、次のバスにしてもいいですか?」
小泉先生「ん?」

 小泉先生は坂井先生の方を振り返った。 「なにごとだ?」とバスに乗り合わせた他の人の 視線も坂井先生に集中した。 ちょっと緊張したのか坂井先生の顔が赤くなる。 そわそわとアゴやら額など触りはじめ、何か難しい 問題の解決を迫られている・・・という演技をし始めた!?。演技に決まっている! あんたにゃ、 考える理由がない。人の視線を気にして、カッコつけてるのか?
  その坂井先生が出した答えとは! 先生は親指と人差し指で丸を作って腕を高く上げた。 OKサインだっ!

坂井先生「オッヶ〜!!」

 シーンとしたバスの中に坂井先生の声が響いた。

まさき 「久しぶりに見たよ・・・
     OKサイン・・・。」

 

■題  名:その79 傷      【2000年07月22日】


 サチ隊長が降りると、バスはゆっくりと発車した。 サチ隊長はバスがゲートに入るまで見送ると、 オレの方へ歩いてきた。 サチ隊長の用事ってなんなんだ?

サチ隊長「おまえ、橘とは小学校からの知り合いなのか?」

 そう言いながらサチ隊長はそっとカズの腕時計をオレに差し出した。

まさき 「カズ? はい。 5、6年のとき一緒でした。」
サチ隊長「・・・そうか。」

 オレが腕時計を受け取ると、サチ隊長はそのまま建物の方へ戻っていった。そして、静かにベンチへ腰を下ろした。

まさき 「カズを知ってたのか?  隊長・・・?」

 渡された腕時計を見ながらオレはそうつぶやいた。

まさき 「まぁ、いっか!  とりあえず上手くいった。
    これで坂井先生の機嫌もよくなるはず!
    カズの腕時計も戻ったし。」

 オレは気分がよくなり腕時計を空に向かって投げた。
そしてキャッチ。今度は、スキップしながら 腕時計を投げ、キャッチ。

まさき 「よし!、もういっちょう!」

と、腕時計を投げようとした時、指に何か 「ザラッ」っとした違和感を感じた。 オレは慌てて、手を開き腕時計を見た。

まさき 「なんだ!?」

 よく見ると、表面のガラスに傷が付いていた。

まさき 「あぁ、あの傷か・・・。
    なんだよ。また壊しちゃったんかと思ったぜ・・・。
    ・・・ん!?」

 オレはあることを思い出した!

 

 

 

■題  名:その80 夏の終り      【2000年07月22日】


 カズ、小学校、腕時計。
 サチ隊長、サチ、サチコ、桜田・・・。

まさき 「そうだ。隊長の名前、桜田幸子だったんだ。」

 カズとサチ隊長はすでに出会っていた。
カズが小学6年生の時、夏の暑さもようやく 弱まり夕方になると涼し気な風が吹きはじめた頃、 そう去年の9月の終わり。  二人は出会っていたのだ。 オレの気付かぬところで!
 セミの声もあまり聞こえなくなり、行き交う人々 の会話からも「夏」が無くなりはじめた。 しかし、昼間の日差しはまだ強く、焼けた肌をさらに照らし、人の顔を歪ませていた。

まさき 「カズ〜、今日も塾なのか?」
ゆういち「もう帰るの?」

 オレ達はゆうちゃん家でTVゲームをしていた。

かずお 「うん。じゃあ。
    おばさん。ごちそうさまでした。」

 バタン。
まだ、4時をまわったばかりだった。 5時から塾らしい。塾は少し遠くにあって 30分ほどかかると言っていた。

まさき 「往復で1時間だぜ。信じらんね〜よ。」
ゆういち「ここらへんじゃ一番有名なところらしいからね。」
まさき 「いや、そうじゃなくて。
    よくそこまでして勉強する気になるなってこと。」
ゆういち「そりゃ〜・・・。」

 ゆうちゃんはオレの顔を見た。

ゆういち「僕も塾、通おうかな・・・」
まさき 「!? オレを見て言うな!」

 カズの塾は電車に乗って行く。 カズ自身は「自転車でいける」と言ったらしいが、 帰りは日が暮れて暗くなるため、親が電車で行けと言ったらしい。家に帰って来るのは7時半から 8時、電車が遅れる(この電車なぜかよく止まる) と9時になるらしい。
 オレはTVを見て爆笑してる時間だ・・・。

 

この日記に登場する人物、団体、事件等は、すべて架空のものです。
なお【00年00月00日】とは作者の書いた日付けで、
作品中の日付けとは関係ありません。

 

ページのTOPにもどる      もどる