雑動部活動日誌 第2部
第一話「罰掃除、黒沢の誇り!?」

 

その1

No.121

マム−「え?」
同級生「いや、だから・・・」
マム−「?」
同級生「代わりにやってくれって言ってんの!」
マム−「なんでオレがやらなくちゃなんないんだよ!」
同級生「いや、だから、頼んでンじゃン!
   頼むよ、な? お願い! 
   今日はどうしてもダメなんだよ。
   ちゃんとお礼はするからさ。な? 頼むって!」

 放課後のことだった。同じクラスの友達に「罰掃除」を代わりにやってくれと頼まれた。「罰掃除」とは、その名のとおり「罰」の掃除。宿題(課題)をやってこなかったり教科書などを忘れてくると、その度合いに応じて「罰掃除」を命じられる。「廊下を乾拭きで5往復しろ!」などと言われるのだ。ただし、坂井先生担任の俺達のクラス、そして坂井先生担当の理科・第一分野の他クラス授業に限られる。

生徒「おいおい、ふざけろよ。小学生じゃね〜んだから!」
先生「一ヶ月前は小学生だろ! かわんね〜よ!」
生徒「今は4月! 中学生!」
先生「文句言う前にちゃんと宿題やってこい!」

 ちゃんと「罰掃除」をしたかどうか、不正はないかどうかと各クラスに「罰掃除係り」なるのもを作り、しっかりと監視させる徹底ぶり。しかし考えようによっては良くもとれる。「罰掃除」をすれば宿題をしなくていいと考える者も当然出てくるわけで・・・。まあ、いわゆる常連さん!?。最初(半月前)は何だカンだと文句を言っていた生徒達も、今じゃ当たり前のように「罰掃除」をしている。慣れとは恐ろしい。

マム−「でも罰係り(罰掃除係り)どうすんだよ!」
同級生「おまえ知らないのか? 罰係りの黒沢、カネ次第らしいぜ。」
マム−「?」

 聞くところによると、この罰係りの黒沢、罰掃除代行をしていて、独自の裏ルート!?を利用し他のクラスの罰係りと癒着、出張代行までしているらしい。常連客?の間では結構有名なのだそうだ。
こんな儲け方があったのか。雑動部の血が騒いだ。

マム−「あの〜、黒沢くん。
   ちょっと話があるんだけど。罰掃除のことで。」
黒沢 「・・・・・・。
   罰掃除の完了確認か?
    それとも・・・
   名義変更?
   罰掃除代行依頼か?」
マム−「め、名義、変更を・・・」
黒沢 「500円。」
マム−「ご、500円!? 」
黒沢 「後払い、100円の5回払いでもOK。」
マム−「・・・ちなみに代行はいくらですか?」
黒沢 「1往復500円。」
マム−「ボッタクリじゃん!!」
黒沢 「イヤなら自分でやれ。 っていうか、本人にやらせろ!
   頼まれたんだろ? 
    今日、お前に罰掃除の命令は下っていない。」

 こいつ、しっかりチェックしてやがる・・・。

マム−「と、とりあえず名義変更だけで・・・。」
黒沢 「毎度!
   じゃ、見てるから、始めて。掃除。」
マム−「え? ずっと見てるの?」
黒沢 「もちろん! 不正が無いようにね。」
マム−「(ちっ!) やりにくっ!!」

 (〜00.11.24)

 

 

その2

No.122

 早速、翌日からオレは客探しをはじめた。
黒沢より値段を下げ、一往復400円とした。罰掃除は最低5往復からなので、名義変更代500円と合わせて2500円以上となる。高い……。自分でもそう思う。でも、黒沢は今まで3000円でやってきたわけだし、お願いするひともいたからこそその値段でやってきたわけだろうし。まあ、カネ持ってるやつはもってるってことだろうな。うらやましい……。
 朝のホームルームから帰りのホームルームまでしっかりチェックし、ニ人の客をゲットした。ちなみに罪状は「制服の第一ボタン開け」「上履きのかかと踏み」……。おいおい、坂井先生、そこまでしなくても……。5往復ずつで合わせて4000円の儲け! うわっ! すげ〜おいしい!!
 ところが一週間もするとオレをまねて同業者が複数現われはじめた。
もちろん価格競争も激化し、休み時間の度に廊下や階段の踊り場では客引きがしきりに声をあげていた。
「ねぇねぇ、かわるよ〜!!」
「ぜったいバレないからさ〜!!」

 さらに数日が経つと一往復200円を切り、120〜150円にまで落ちこんだ。なかにはどこぞのサービスをまねて「名義変更代コミコミ1000」だとか「コミコミ850」だとかまで出始めた。しかし、儲けがみるみる下がっていく業者たちには、罰係りに対する不満がつのり、いつしか罰代行組合を発足。各クラス罰係りを総括していた黒沢に「名義変更代」の値下げを要求した。が、黒沢は一切拒否。そして組合は再度、交渉を試みた。しかし、黒沢は断固として拒否。ついには組合側の怒りは頂点に達し、「他クラス罰係りへの関与の禁止状」を一方的に送りつけ、各クラスの罰係りの買収に乗り出した。しかし、罰係り、組合ともに罪悪感と罪の公表の恐怖から、状況は変わらずに平行線をたどっていた。

 と、そんなある日のロングホームルーム。
遠足の班や、バスの席決めなどをする予定だったので、クラスはガヤガヤとしていた。
そこに、坂井先生がきて日直が「起立!」と言おうとした時だった。

日直「き…
  『ダンッ!!』

 坂井先生が大きな音をたてて教卓を叩いた。

生徒「……!?。」
坂井先生「黒沢っ! 松室っ! 立てっ!」
マム−「!?」

(〜01.01.10)

 

 

その3

No.123

 坂井先生はものすごい形相でオレと黒沢を交互ににらんでいる。顔が赤い。明らかに怒っている……。
オレと黒沢がゆっくりと立ち上がると、坂井先生は目をそらし腕を組んで教壇の上を行ったり来たりし始めた。坂井先生は何も言わずただ教壇の上を歩き続けた。そして、生徒達がざわつき始めたとき、坂井先生は低い声で言った。

坂井先生「なんで立たされてるか、わかるか?」
マム− 「……」

 罰掃除について……。オレだけではなく、生徒全員がそう思っているに違いない。しかし、もしかしたら別 のことかもしれない。そう思ってオレは、いや、みんなも……ただ黙っていた。

黒沢  「わかりません!」

 全員が「えっ!?」という顔で黒沢を見た。
そしてみんなの視線は坂井先生へと移った。

坂井先生「……」

 坂井先生は静かに教壇を降りると、ゆっくりと黒沢の方へ歩き出した。オレの席は教室のちょうど真ん中辺り。黒沢の席はオレの二つ斜後ろ辺りの席だ。坂井先生はオレの横を通 り過ぎ、黒沢の前で立ち止まった。そして、腕を組んだまま低い声でくり返して言った。

坂井先生「なんで立たされているのか、わかるか?」

 教室はしんと静まりかえった。

黒沢  「わかりません!」

     バシッッ!!

 坂井先生の手が黒沢の頬をうった。
黒沢の顔が傾く。
 坂井先生は無言でくるりと向きを変え歩き出した。と、そのとき。

    バシッッ!!

マム− 「痛っ!!」

 坂井先生はオレの後頭部を思いっきりひっぱたいた。
あまりの痛さに頭を押さえてうずくまり、「オレは何も言ってないだろう!」と心の中で叫んだ。
 そして坂井先生は教卓に戻ると両腕をつき、話を始めた。

坂井先生「今日、ある生徒から、信じられない話を聞いた。」
生徒  「……。」
坂井先生「罰掃除に不正がある。と。」
生徒  「…………。」
坂井先生「さらにそれで金もうけをしている奴がいる。と。」

 教室は隣の人の鼓動が聞こえそうなくらい静まり返っていた。
先生はゆっくりと話を続けた。

坂井先生「この中で、このことを知ってた者、手をあげろ。」
生徒  「……。」

 みんなは手をあげるかあげまいか悩んでいるようだ。それを察したように先生が言った。

坂井先生「では、質問を変えよう。
     知らなかった者、手をあげろ。」

 みんなの顔色が変わった。 もうおしまいだ。これで手をあげようものなら、それこそ危険だ。
 教室は地獄と化した。
誰一人として微動だにせず、ただ時間だけが過ぎていく。時折聞こえる他のクラスのどよめきと、笑い声が、なんともうらやましく思えた。ほんとは遠足の班決め、バスの席決めだったはずなのに。
 と、その時だった。この静寂をかき消すように誰かが言った。

黒沢  「知らなかったのは、先生だけじゃないっスか!?」
生徒  「!?」

 全員が「えっ!?」という顔で再び黒沢を見た。
そしてみんなの視線は坂井先生へと移った。

 ダダガガァァァァァーーーーーーンンンンッッ!!!

 坂井先生が教卓を蹴り倒した!

なんてこった。ああ、恐怖の大魔王〜。今来てくれ〜。

(〜'01/02/24)

 

 

その4

No.124

坂井先生「もういっぺん、言ってみろぉ!!」

 坂井先生は大声で言って、黒沢のもとへ歩み寄った。 そして、「ゴッ……」と鈍い音がしたと同時に、女子の何人かが「キャー」と叫んだ。黒沢は殴られ床に倒れた。が、すぐに立ち上がり先生をにらみ返した。

黒沢  「ハッ、知らなかったのは、あんただけだってんだよ。
     そんなおめでたいやつは、あんただけだって言ってんだよっ!!」
坂井先生「ぁ゛あ゛!!」

 先生は再び腕を振り上げたので、オレは「こりゃいかん」と、悩みに悩んだ末、二人の間に入った。

マム− 「先生、やめてくださ、よ!」
     ガツンッ

 言い終わるより早く坂井先生の拳はオレの額にヒットした。オレは二、三歩さがってうずくまった。

マム− 「痛って〜!!!
    巻き添え第一号だよ〜。」
生徒A 「いや、お前も関係者だろ。
    まきぞえじゃね〜よ……」
マム− 「なるほど……」

坂井先生「黒沢。なんでこんなことをしたんだ。」
黒沢  「……カネ、かな。」
坂井先生「金? だと。」
黒沢  「そう、カネさ。カネのためならオレは何だってする。」
坂井先生「それが悪いことでもか? 人から後ろ指さされることでもか?」
黒沢  「そうさ、人が何と言おうがオレが納得したことなら。
    今回だって、オレは悪いことをしたとは思ってない。
    いや、かえって良いことをしてたと思っている。」
坂井先生「何!?」
黒沢  「別にオレは、『自分で罰掃除をする』って奴に無理に
    お願いしてるわけじゃぁない。需要と供給さ。
    だからいままでこうして成り立ってきたんだ。
    忘れ物をして罰掃除を命じられた奴がいる。
    だが、何か理由があって罰掃除をしたくない。あるいは、
    できない奴がいる。そこで、オレが代わりにやって、
    金を貰い、その罪悪感をやわらげる。
    オレがする罰掃除だってけっして手を抜いているわけじゃない。
    そこいらのどんな奴よりきっちりやるし、誇りを持っている。
    どこに悪いことがある?
    悪いことをしてるのは、むしろ、先生のほうじゃないのか。」
坂井先生「?」
黒沢  「宿題をわすれた。はい、罰掃除!
    名札を着けてない。はい、罰掃除!
    教科書忘れた。はい、罰掃除!!
    ナンでもカンでも罰掃除!
    何にも聞かずに押し付けやがって。
    あんたは生徒のこと考えたこあんのか!?
    なんで忘れたのか、どんな理由があるのか
    ちゃんと考えたことあんのか!?
    体調が悪くてふらふらしながら罰掃除やってる奴とか、
    何か理由があってさ、おれにゃわかんねぇけど、
    唇噛んで、顔真っ赤にしてさ、目にうっすら涙うかべてさ……。
    そんな奴等の気持ち、あんた考えたことあんのかよっ!!」
坂井先生「……」

 黒沢の熱弁に教室中がしんとなった。

(〜'01.04.17)

 

その5

No.125

 窓の外を見つめてままの黒沢に、坂井先生は背を向けゆっくりと教卓に戻った。そして、両腕をついて鼻で大きく深呼吸をした。そして教室の後ろの黒板の方を見ながら誰を見るでもなく坂井先生は話しはじめた。

坂井先生「確かに……、確かに、最近、ちょっと、うん、
    いいかげんだったかもしれないな。
    みんなの言い訳も聞かずに。うん。
    一方的に押し付けてばっかりで。
    その点では先生がいけなかったのかも知れん。
    申し訳ない。」

坂井先生が非を認めた。その意外なことに目を伏せていたみんなは先生の方をチラッと見た。

坂井先生「だがそれは、罰掃除は、
    お前達のためを思ってのことだったこと、
    わかってほしい。
    お前達はもうガキじゃないってことだな。
    言ってもわからない、身体で覚えなきゃならんガキじゃなくて、
    ちゃんと言えばわかる大人ってことだな。
    よ〜し、わかった。罰掃除は今日でやめにする。」

 こいつぁ〜何か企んでる! オレはそう思った。

坂井先生「だが、不正を許すワケにはいかない。
    ましてや、それで金儲けをしようなんて言語道断。
    絶対に許さん。
    そして、不正を知って、見てみぬフリをしてきた者も。
    だから、罰掃除の罰を、罰掃除で償ってもらおうと思う。」

 教室の皆の身体が一瞬、ビクッとするのがわかった。

坂井先生「黒沢っ! 松室っ!
    お前らに50往復っ!!
マム− 「!?」
坂井先生「そして二人を除いたこのクラスの残り、30名!
    お前達は30往復だっ!」
生徒一同「!?」

 生徒達の表情は凍りついた。
坂井先生は教室中を見渡すと続けて言った。

坂井先生「が、しかしだ。
    中にはちゃんと自分で罰掃除をしていた者も
    いるだろうし、そういう者がほとんどだと信じたい。
    そこで、みんなの分の罰掃除を、
    今回の事件の首謀者にやってもらおうと思う。」
黒沢  「!?」
坂井先生「全員の分を合わせて……。
    計1000往復っ!!
    今日中にやれっ!
    出来なかったら、お前らの遠足は無しだっ!!
    始めろっ!!」

 坂井先生は廊下を指差して黒沢をにらんだ。

坂井先生「お前の言う、
    その『誇り』とかいうものを見せてみろ!」
黒沢  「上等だよ。ちっ。」

 黒沢は小さく言うと静かに廊下へ出て行った。
殴られた後、床に座っていたオレは、自分の席に戻ろうとした時、先生が言った。

坂井先生「松室っ!!
    てめぇもだよっ!!」
マム− 「ええ!?  なんでオレが? 」
坂井先生「とっとと行けっ!!」
    ダンッ

 教卓を叩きながら先生が言った。
オレは渋々教室を後にした。

(〜'01.04.19)

 

 

その6

No.126

 廊下に出ると、黒沢がちょうど数往復終らせて戻ってくるところだった。

マム− 「ひとり500往復ずつか……。
    500って、500!?って何だよって話だよな。
    遠足なし、とか言いやがって。」
黒沢  「別に遠足に行きたいとは思わねぇ。
    行かないで済むならオレは行かないね。
    それに……」

マム− 「……?」
黒沢  「それに、おまえに手伝ってもらおうなんて思って無いし、
     期待もしちゃいない。かえってやりにくい、迷惑だ。」

マム− 「なに〜!」
黒沢  「お前の分の50往復やって、とっとと帰れ。
    お前らみたいにお遊びでやってたんじゃね〜んだ。
    いってみりゃプロだ。お前らはずぶの素人。」

マム− 「なんだと!」
黒沢  「スピードも、仕上がりも全く違う。」

 黒沢は雑巾がけをはじめた。
オレも後を追った。全速力で駆け、黒沢を追い抜いた。

マム− 「へっ、そんなモンかよ。プロってのは!
    おさき〜!! 」
黒沢  「……」

 そのまま差をひろげてターン!
するつもりだったが、折り返したところで黒沢に抜かれた!

マム− 「なに!?」
黒沢  「全然、なってね〜な。ド素人め。」
マム− 「くそっ!!」

 こうして2、3往復とつづくが、直線でオレが抜き、ターンで抜かれる、のくり返しだった。
そして、20往復したときオレは苦しくて足を止めた。

マム− 「はぁ、はぁ、はぁ、」

 黒沢はジロッとオレをにらみ、何も言わずに走り続けた。

マム− 「はぁ、はぁ、はぁ」

 座り込んで休んでいるオレを気にもせず、黒沢は黙々と続けた。

マム− 「はぁ、   はぁ」

 1往復、また1往復と回を重ねてもペースは変わらなかった。

マム− 「・・・はぁ・・・」

 タッタッタッタッと廊下を蹴る上履きの音が廊下に響く。

マム− 「・・・・・」

 ふと、黒沢をずっと目で追っている自分に気付いた。

マム− 「クソッ」

 そんな自分を否定したかったのか、平然と走り続ける黒沢に頭にきたのか、オレは無意識に走り出していた。
 オレは黒沢に並ぶように合わせて走った。1往復、また1往復。何分も走ったとき、あることにオレは気付いた。いや、聞こえた。黒沢の「はあ、はあ」という呼吸の音。こいつもやっぱり人間なのかと、そのとき思った。

黒沢   「さっきの勢いはどうしたんだよ?」
マム−  「お前こそ、ハァハァ、顔色が悪いんじゃね〜のか!?」
黒沢   「そりゃ、お前だ !」
マム−  「うるさい! ハァハァ……」

(〜'01.05.30)

 

その7

No.127

 30往復、そして40往復。 オレも黒沢も「はぁはぁ」言っていた。話す余裕も無い。 血が頭にのぼり顔が熱い。
オレは心の中で「あと10往復……、あと9往復……」と自分に言い聞かせていた。

マムー 「いよっしゃー!!
   50往復!!」

 オレはそのまま廊下に仰向けになった。

マム− 「きっつーっ!!
    もう動けね〜!!」

 と、そこでチャイムが鳴った。
すると、 窓があちこちで開き、皆が顔を出した。

坂井先生「なに見てんだー!!
    お前らもやりたいのかっ。
    窓閉めろー。帰りのホームルーム始めるぞっ!」

 一斉に窓が閉まる。

マム− 「けっ。何様のつもりだ。」
矢部  「お前こそ。」
マム− 「ん!?」

 気付くと後ろに矢部がいた。
あの矢部だ。

マム− 「な、なんでテメ〜がここにいるんだよ!」
矢部  「いや、ちょっと様子を見にね。」
マム− 「様子?」
矢部  「そう。」
マム− 「……。」
矢部  「……。」

 こいつの目……、笑ってる!?

マム− 「……あっ!?
    テメ〜だなっ! チクったのぉ!!」
矢部  「さあ。なんのことかな?」
マム− 「このアマ〜……」

坂井先生「おい、松室。なにサボってンだよ!」
マム− 「!?」

 ホームルームが終り先生が出てきた。

マム− 「先生! こいつでしょ。
    こいつが言ったんでしょ〜!?」
坂井先生「さあな。教えられないし、
    教えたくもないな!
     そんなことより、早く雑巾がけしろっ。」

 き〜!! むかつくっ。

マム− 「別に遠足いかなくってもいいですよ。
    二人だけで授業受けるのも一興かなって。」
坂井先生「なんだと。お前は1限目から5限目までずっと
    マラソンだ。こらっ!」
マム− 「っていうか。もうオレの分の50往復は終ったし、
    残りは黒沢が一人でやるって言ってますんで。
    黒沢プロが。」
坂井先生「あん?」

 オレと先生の視線、そしていつの間にか集まったギャラリーの視線が黒沢に集まった。
黒沢はずっと休むことなく続けていた。額には汗がにじんでいる。
 しんとした廊下には、黒沢が床を蹴る音だけが響いていた。

(〜'01.07.01)



その8

No.128

坂井先生「オレはお前ら二人に言ったんだぞ!
    お前も続けろっ。松室ォ!!」
マム− 「黒沢がいいって言ってるんですからいいじゃ
    ないですか!」

 ギャラリ−の冷たい視線を感じる。
汗をかき、息をきらしている黒沢と比べると、今のオレはとても嫌な奴に見えるようだ。

矢部  「お前、人間か?」
マム− 「あ!?」
坂井先生「恥ずかしくないのかっ!」
マム− 「ちっ。
    ああ! そうともっ! 
    恥ずかしくも何とも無いねっ!
    オレは悪魔さっ! オレの血は緑色さっ!!
    そう思うんならお前らがやりやがれっ!!
    ギャラリーどもぉ〜!
    ぺっ! ぺっ!」

 ギャラリーが一人、また一人と逃げるように消えて行く。
そんな中、うちのクラスの女子の学級委員が坂井先生に近付き何か話し始めた。 しかめっ面で腕を組んだ坂井先生に、何かを必死で訴えているようだ。

マム− 「……なに話してんだ。気になるな……」

と、そこで矢部と目があった。矢部はオレをにらみ付けると、首をふって、たしかめてこいよと促した。

マム− 「なんでオレが、お前が行けよっ!」
矢部  「じゃあ……」

 矢部は手を差し出した。

マム− 「は?」
矢部  「いくら?」
マム− 「ああ〜!?
    ふざけろよ。なんでテメ〜に……くっ。」

 オレはしぶしぶポケットから小銭を取り出し、矢部の手のひらにのせる。
100円玉一枚……、二枚……。
10円玉一枚……。

矢部  「ちっ!!」

(〜'01.12.02)

その9

No.129

 坂井先生と学級委員に、矢部が加わり一層声が大きくなった。金を払って矢部に行かせたものの、オレも気になって少しづつ近付いた。

学級委員「黒沢君を帰してあげて下さい。」
坂井先生「それは出来ん。」
学級委員「でも、黒沢君は……」
坂井先生「それとこれとは別の問題だ。」
矢部  「?」
学級委員「先生……」
坂井先生「お前も用が無いなら早く帰れ。」

 坂井先生は学級委員に背を向けた。

学級委員「……私も……、
    私も、黒沢君に頼んだことがあるんです。」

 坂井先生は驚いたように振り返った。

学級委員「私だけじゃ無いです。
    クラスの女子のほとんどが、代わりにやって
    もらったことがあるはずです……」
坂井先生「……。」
学級委員「放課後に廊下の雑巾がけ……、
    私の性格だからかもしれないけど、
    下校する生徒達の視線を受けながらするって、
    どんなに恥ずかしいかわかりますか?」
坂井先生「……」
学級委員「たしかに、二度とやりたく無いっていう、
    効果もあるかも知れないけど、
    中にはどうしようもない理由とかが、
    あったりするはずだし……」
坂井先生「……それは、言い訳だ。」
学級委員「……」

 坂井先生はまた背を向けた。
学級委員は目にうっすらと涙を浮かべ、うつむいてしまった。

 

つづく……

もどる